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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)60号 判決 1992年3月30日

控訴人

朝銀東京信用組合

(旧名称同和信用組合)

右代表者代表理事

鄭京生

右訴訟代理人弁護士

上田誠吉

佐藤義弥

古波倉正偉

松山正

安藤寿朗

佐々木秀典

小野寺利孝

岡田啓資

田代博之

亀井時子

柴田憲一

床井茂

小池義夫

横田俊雄

藤谷正志

前川雄司

被控訴人

東京国税局收税官吏

倉田薫

被控訴人

右代表者法務大臣

田原隆

被控訴人両名訴訟代理人弁護士

西迪雄

齊藤健

被控訴人両名指定代理人

吉田徹

外八名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中、被控訴人らに関する部分を取り消す。

2  東京簡易裁判所裁判官蜂谷明が東京国税局收税官吏野坂哲也の請求に対し昭和四二年一二月一二日付けでなした控訴人本店を臨検・捜索場所とする臨検・捜索・差押許可状三通(犯則嫌疑者A及び同Bに対する各所得税法違反犯則事件並びに同三和企業有限会社に対する法人税法違反犯則事件に係るもの)に基づき、昭和四二年一二月一三日、東京国税局收税官吏木場初が控訴人本店においてなした原判決別紙第二目録(一)ないし(三)記載控訴人本店分複写物の原本に対する各差押処分、並びに、右同裁判官が右同請求に対し昭和四二年一二月一二日付でなした控訴人上野支店を臨検・捜索場所とする臨検・捜索・差押許可状四通(犯則嫌疑者C及び同Bに対する各所得税法違反犯則事件並びに同松本祐商事株式会社及び同三和企業有限会社に対する各法人税法違反犯則事件に係るもの)に基づき、昭和四二年一二月一三日、東京国税局收税官吏小林一誠が控訴人上野支店においてなした同目録(一)ないし(三)記載控訴人上野支店分複写物の原本に対する各差押処分をいずれも取り消す。

3  被控訴人国は、控訴人に対し、原判決別紙第二目録(一)ないし(三)記載の複写物を引き渡せ。

4  被控訴人国は、控訴人に対し、金五〇五二万三三六五円及びこれに対する昭和四三年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人国は、その費用をもって、控訴人のために、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞及びサンケイ新聞の各全国版の社会面に、見出しに三倍活字、本文に1.5倍活字、記名、宛名及びその各肩書に二倍活字を使用して、原判決別紙第三目録記載の謝罪文を各三回掲載せよ。

6  被控訴人国は、その費用をもって、控訴人のために、縦一メートル、横一メートル三〇センチの板に原判決別紙第三目録記載の謝罪文を墨書し、これを控訴人の本店及び上野支店の各店頭に一か月間掲示せよ。

7  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

8  第三項ないし第六項につき仮執行宣言。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者の主張は、以下のとおり付加、訂正、又は削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決一三枚目裏七行目の末尾に続けて「しかも、本件令状のように、実收入や実所得の記載を全く欠き、如何なる実收入や実所得を隠蔽したのか、確定申告書が如何なる点で虚偽なのかについて全く触れていない令状は、単なる過少申告行為を記載したものと同視せざるを得ず、ほ脱犯の構成要件の記載を欠く違法なものというべきである。」を加える。

二  同一四枚目表末行の「A」から同裏七行目の末尾までを「B及びCに関する各許可状には、犯則事実として「総收入金額ならびに所得金額が左記のとおりであると過少な申告を行い」と記載されているにもかかわらず、「総收入金額」欄は空欄のままであってその記載がなされていないから、右各許可状は、国犯法二条四項の規定に違反し無効である。」と改める。

三  同一六枚目表八行目の末尾に続けて「また、調査証には調査担当者として大蔵事務官某とのみ記載されており、国犯法上の調査を行う査察官某なる記載がなかったのであるから、右調査担当者の記載をもってしても国犯法上の調査であることは明らかにされていない。」を加える。

四  同一七枚目表五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「また、本件許可状には、すべての嫌疑者について実際所得金額の記載がなされていなかったことなどに徴すると、本件強制調査は、嫌疑者の所得金額を把握するための調査、すなわち所得調査に他ならないものであり、国犯法の許可状により強制的になされるべきものではない。仮に、百歩譲るって、所得調査について国犯法上の強制調査が競合的に許されるとしても、一方が刑事手続であるのに他方が行政上の調査手続であること、調査対象者が嫌疑者そのものではなく、信用を何よりも重んずる金融機関であることを考えると、比例原則よりみても、また、より制限的でない他の選び得る手段の原則からみても、一挙に、国犯法上の強制調査の手段をとることは、憲法三五条に違反する違法な強制調査というべきである。」

五  同一九枚目裏七行目の末尾に続けて「一般に金融機関が税務調査に応対するときの態度として、特定人の調査であっても多数人を網ら的に記載しているときは調査を拒否できること、調査対象者以外の預金等を調査する結果となるような索引簿、印鑑簿、元帳綴、伝票綴等の一覧性調査であるとき、また正式の帳簿、書類以外の例えば銀行内部の稟議書、メモ等の調査であるときについてはこれを拒否できることが金融業界における慣習となっている。」を加える。

六  同二三枚目表三行目の「あって、」の次に「東京国税局が本件強制調査によって新たに入手した資料は右の四点であること、本件強制調査は前記任意調査から一年も経過した後になされたものであること、その後間もなく告発、起訴がなされていることなど」を加え、同五行目の「收集されていた」を「收集され、更正、決定の準備は完了していた」と改める。

七  同二三枚目裏六行目の「である。」の次に「犯則調査は、先ず所得税法上の質問検査権を行使して実際の所得額を調査し、これが犯則事実に該当すると判明した時に国犯法による調査に及ぶべきであり、このようなつくすべき調査をなさないまま実際の所得も白紙のまま許可状を受けて強制調査を行ったのは違法である。」を加える。

八  同二五枚目裏八行目の末尾に続けて「前記のとおり、実際所得金額を把握するためであるならば、まず、所得税法上の質問検査権を行使して調査を行い、嫌疑実際を相当かためたうえで、それに対応する証拠の存在が予定されるのにこれを収集できないという状態に至ったときに、はじめて国犯法上の強制調査権を発動すべきものである。本件においては、未だ嫌疑事件として未成熟であって、昭和三九年分、同四〇年分の実際所得金額を把握するまでの段階に至っておらず、したがって、本来、所得税法上の質問検査権の行使によって調査がなされるべきであったのであり、国犯法上の強制調査をなしうる段階には達していなかった。」を加える。

九  同二七枚目表二行目の末尾に続けて「なお、索引簿、印鑑簿、名寄帳、反対伝票は、一覧性があって、金融機関の顧客に対する守秘義務の関係上、たとえ東京国税局であっても、その掲示を拒否しうるものである。」を加える。

一〇  同二八枚目表六行目及び同三一枚目表末行の各「応待」を「応対」と改める。

一一  同四〇枚目裏一行目の末尾に続けて「なお、許可状の提示は、本来、法人の代表者またはそれに代わるべき立場の者に対してなされる必要があるのであり、それらの者が不在のときでも、現場の最上席者であるとして一介の預金係長に提示すれば足りるというものではない。」を加える。

一二  同四〇枚目裏一〇行目の「原告は、」を「立会いは、本来、執行を受ける者の利益を保護し手続の公正を担保するためになされるものである。本件強制調査は、第三者である金融機関を調査するという異例特殊な場合であるから、事情を熟知している総括責任者を立会人とすべきであり、係長のような一部門しか把握していない立場にある者に立会いの諾否を決める権限はない。」と改め、同裏末行の「あったため、」の次に「両店の各係長はそれぞれ、」を加える。

一三  同四二枚目表四行目の「本件強制調査に立ち会った」の前に「本件強制調査は、本店の場合、一〇〇坪の営業室に四〇人の捜索、差押担当の査察官を、上野支店の場合、一階、二階の営業室に六七人の査察官を、それぞれ配置して実施された。しかも膨大な数量の帳簿書類を対象として行われ、かつ、金融機関に対する調査として専門的知識が要求されるものであった。しかるに、」を加える。

一四  同四二枚目表一〇行目の「原告は、」の次に「本店及び上野支店において、」を加え、同裏二行目の「これが」を「国犯法九条は捜索差押え場所への出入禁止を規定しているが、強制調査中における職員らの電話の送信、受信は人の出入りではないから査察官がこれを禁止することはできないのであり、右送信、受信の禁止行為が」と改める。

一五  同四三枚目裏一〇行目の「差押物が」から同一一行目の「防止し、」までを「差押物が差押後に執行機関によって変造、加工等されたり、誤って形態を変更されたりすることを防ぐ担保的な役目を果たさせ、」と改め、同四四枚目表六行目の「ならない。」の次に「もし、収税官吏の所属官署において差押目録の謄本を作成することが許されるとするならば、差押物件が差押後に、執行機関によって変造、加工されたりすることを防ぐ担保的役割は全くなくなり、また何が差押えされたかも全くわからず、差押物件の返還請求など全く不可能になってしまい、法が差押目録謄本の作成交付を義務づけた趣旨を全く形骸化することとなる。」を加え、同九行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、本件強制調査の際には、差押目録の作成ができないほどの妨害はなく、また、妨害があったとしてもそれを排除して目録を作成することができたはずである。たとえば、上野支店の場合について当日現場にいた査察官側と控訴人側の人数及びその構成を見てみると、査察官の方は、小林一誠統括官以下六七名の査察官であって全員男性であり、その他に近くに援助要請をすれば直ちに出勤してくれる上野警察署警察官四四名が待機し、さらに上野警察署長の要請で機動隊も二回にわたり各四五名ずつ到着し、表の方の警備に当たって待機していた。また、立会人となったという警察官三名が店内にいた。一方、控訴人側は、当初は男子職員一一名、女子職員一一名計二二名であり、その後帰店した職員や同じ建物の朝鮮人同胞たちが加わり、合わせておおよそ三〇数人となったが、そのうち一一名は女性であった。これによって明らかなように査察官の数が約二倍であり、力関係の優劣は明白である。実力による妨害を受けて差押えの執行行為ができなかったというような状況は、客観的に存在しなかったのである。もし仮に、妨害のため執行の続行が不可能又は困難な状況であったならば、査察官は、警察官の援助を要請すべきであり、かつ、いつでもそれができたのであるが、実際には右援助要請をなさなかったものであり、この点からみても、現場で差押目録の作成、交付ができないほどの妨害がなかったことは明白である。

一六  同四四枚目裏七行目の「必要とするもの」の次に「であり、関連性を有する可能性が認められるだけでは足りない」を、同八行目の「べきである。」の次に「勿論、犯則調査は流動的、発展的であり、右関連性の有無についての判断は差押えの時点限りのものであることは避けがたく、後にその判断は変わるかもしれない。しかし、調査の途中段階で調査不十分な時期であるならば、それだけ誤った強制調査がされる危険が大きいのであるから、一層正確、厳密な識別が要求されるのである。そして、許可状発付の段階では、犯則事実は許可状発付が可能なまでに熟しているのであるから、この犯則嫌疑事実を中心に考えるならば、搜索によって探し当てるべき物件はかなりの程度に絞られているはずであり、右関連性の有無の判断は、即座にかつ正確になされるはずであって、もし関連性の有無について正確、厳密な識別ができないのであれば差押えは許されないのである。したがって、関連性の有無の判断の困難性を理由に関連性を有する可能性が認められればよいとして安易に差押えを許容することは、令状に「押取する物の明示」を要求しその「明示」にかかる物件のみの差押えを許しそれ以外の差押えを禁止した憲法三五条一項の保障する令状主義に違反するものである。また、犯則所得確定のため犯則嫌疑者の仮名預金をいわゆる消去法により発見するための資料について犯則事実と関連性ありとすることは、金融機関の有するすべての資料を犯則事実と関連性があるとするものであり、その差押えを認めることはすべての資料の無差別・包括的な差押えを認めることになるという点で令状主義に違反するものであり許されない。すなわち、いわゆる消去法とは、多数の預金口座の中から犯則嫌疑者の預金と関連のないものを消去していって犯則嫌疑者に帰属する預金口座を発見するという方法であるが、そのためには犯則嫌疑者の預金と関連のない金融機関の有するすべての帳簿書類が必要となり、そのような無差別・包括的な差押えを認めることは令状主義に違反し許されないものである。したがって、金融機関の有するすべての帳簿書類につきいわゆる消去法のための資料として当然に犯則事実との関連性を有するものということはできず、右関連性の有無の判断は、正確、厳密になされなければならない。」をそれぞれ加える。

一七  同四五枚目表四行目の「達する。」を「達し、さらに差押番号としては一点とされていてもその一点に包含されている実際の差押物件の点数はほとんど複数かつ多量であり、実際の差押物件の数量は三八七四点(本店三二三五点、上野支店六三九点)もの膨大なものである。しかも」と改め、同五行目の「区分されており、」の次に「右三八七四点を更に右表現単位ごとに分類して計算すれば二六一五綴、七七九袋、三一七冊、一八個、一〇括、八束、二ファイル、一七通、七五枚、三三葉となり、さらに二六一五綴とか七七九袋とかがその内に更に如何に膨大な帳簿書類を包蔵しているかは想像を絶するものがあり、」を加え、同七行目の「これら」を「右のように選別作業が全く行われていないことは、本件差押えに要した時間内に本件差押えにかかる極めて膨大な数量の書類につき限られた人数の査察官においてこれを選別することは不可能であること、右選別は嫌疑事実を熟知している嫌疑者別の担当査察官がこれを行わなければ不可能であるが、本件差押えに当たった査察官のうち嫌疑者別に各嫌疑事件の調査に専従していた者は極めて僅かであり、選別のための組織態勢が作られていなかったこと、本件差押えに当たった査察官に対する事前説明も十分なものではなかったことなどに照らし明らかである。そして、本件差押えにかかる帳簿書類」と改める。

一八  同四五枚目裏七行目の「証左といえる。」の次に「本件差押物のうち、被控訴人らが関連性を主張するものはごく一部にすぎず、その余については関連性の主張すらなされていない。」を加える。

一九  同四六枚目表二行目から同四八枚目裏末行までを次のとおり改める。

「(一) ①伝票(原判決別紙第一目録(一)(以下「(一)」という。)1ないし51、原判決別紙第一目録(二)(以下「(二)」という。特に表示しない限り三和企業分)1ないし3、71、215)・払戻請求書((二)52)・入金票((二)56、65、C分3)について

本店で差し押さえられた伝票は、(一)1ないし51の一五五七綴りであり、これは昭和三八年一〇月から昭和四二年一二月までの四年三か月分の全伝票で、四一万四六四五枚に相当する。わずか三名の犯則嫌疑者の取引にかかる伝票は、一金融機関の四年三か月分の全伝票からみれば九牛の一毛にしかすぎないから、差し押さえられた伝票は犯則事実との関連性がないものと推定され、その包括的差押えは違法である。また、右差押えは嫌疑者、嫌疑内容、嫌疑年度が異なる三通の本件許可状に基づいてなされているが、一金融機関の四年三か月分の全伝票がすべて一様に各嫌疑事実を証明するに足るものとして差押えの対象となるということは常識的にいってありえず、右差押えが無差別、無選別の包括的差押えであることは明らかである。

上野支店で差し押さえられた伝票等は、犯則嫌疑者三和企業の関係で(二)1ないし3、71、215の伝票、(二)52の払戻請求書、(二)56、65の入金票、同Cの関係で(二)C分3の入金票であるが、これも右に述べたと同様の理由により、無差別、無選別の包括的差押えであり、違法である。(二)1ないし3の伝票は、昭和三八年一〇月から同年一二月までの分であるところ、三和企業の嫌疑年度は昭和四〇ないし四二年度であるから、関係のない年度分の差押えであり、複写しておく価値もなかったものである。(二)71の支払伝票は、控訴人が起票した伝票で顧客の作成に係わるものではないから、顧客の署名、捺印等は記載されておらず、しかも、三和企業にはかかわりのないものであって、本件差押えの翌日に還付せざるを得なかったものである。(二)215の収納伝票は、控訴人が作成した伝票であって、Lの署名、捺印等はない。(二)52の払戻請求書は、通知預金元帳によってその内容を把握し得るから差押えの必要性がなかった。(二)56、65の入金伝票は、三和企業との関連はなく、顧客からの入金に対し、控訴人が顧客に作成して交付するものであるから、顧客の署名、捺印等もない。(二)C分3の入金票は、Cの預金元帳によってその内容を把握しうるものであり、控訴人は任意調査の段階で右元帳の調査に協力しているから、敢えて差し押さえる必要性はなかったものであり、また、控訴人が記帳、作成するものであるから、顧客の署名、捺印等もない。

(ニ) ②預金申込書((一)103、120、130、131、141、153、179、203、204、227、233、234、237ないし239、250、(二)21、22、67、81、97、140、245、246、322、B分27)について

実名預金の把握のためには預金元帳で足り、敢えて預金申込書を差し押さえる必要性はない。

預金申込書は預金申込者が記入するとは限らず、また、差押えにあたって事前に犯則嫌疑者や関係者の筆跡まで記憶して差押時にこれを識別することは不可能であるから、預金申込書の筆跡から仮名預金を発見することはできない。

本件差押えにかかる預金申込書に犯則事実と関連性のあるメモ書きがあったということはない。

本件差押えにかかる預金申込書は一万四七〇〇枚程度であるが、犯則事実との関連性が一応認められるものは六枚にすぎず、残り全部につき差押えが違法であるのは勿論、関連性の認められる申込書の数が極めて僅かであることに照らせば差押え全体が違法というべきである。

本店差押分の預金申込書のうち(一)234、237、233、227、250、238は昭和三七年度以前のものであるが、本件強制調査の調査対象年度はA、B及びCについては昭和三九、四〇年分、松本祐商事及び三和企業については昭和四〇年分以降であるから、関連性がない。

本店差押分の預金申込書のうち、(一)103四綴のうちの三綴、(一)141一綴、(一)153四綴のうちの二綴、(一)179一一綴のうちの八綴、(一)204一綴、(一)233一綴、(一)234一綴、(一)237一綴、(一)238一綴、上野支店差押分の預金申込書のうち(二)246一綴は、分離可能であるにもかかわらず一括して差し押さえられており、差し押さえるべき物件以外の差押えは違法である。

本店差押分の預金申込書のうち(一)227、233、234、237、238、250及び上野支店差押分の預金申込書のうち(二)67、140、245、246は関連性がないことから本件差押えの翌日に還付されている。

(三) ③印鑑簿((一)72、73、(二)76)について

印鑑簿とは当座勘定取引者の届出印鑑を登録するための書類であるが当座勘定取引に基づき信用の十分でない取引先が手形・小切手を濫発すると控訴人自体の信用を損なうことになるから、当座勘定の開始にあたっては取引先を厳選しなければならず、控訴人においては、取引者本人を印鑑証明等により確認し、保証人も要求することとしている。したがって、当座勘定取引中に帰属不明の仮名や他人名義の取引が存在する余地はなく、本件差押えにかかる印鑑簿により仮名預金を発見しうるという余地はなく、本件犯則事実との関連性はない。

(四) ④当座取引約定書((一)56、57、(二)16)について

当座勘定約定書は、当座取引を開始するに当たり金融機関と預金者との間で取り交わす契約書であるが、右(三)に述べたとおり、当座勘定取引中に帰属不明の仮名や他人名義の取引が存在する余地はないから、本件差押えにかかる当座取引約定書により仮名預金を発見しうるという余地はなく、本件犯則事実との関連性は複写物の作成された極く一部のものについてのみ認められるが、全体としては関連性がない。

(五) ⑤手形帳小切手帳受取証((一)53ないし55、69、83ないし85、88、249、654)・手形帳小切手帳受払簿((一)68、75、(二)337、338)について

手形帳小切手帳受取証は、当座勘定取引者に手形帳又は小切手帳を交付したときに、その当座勘定取引者から徴する受領書であり、手形帳小切手帳受払簿は、手形帳小切手帳の管理のため手形帳小切手帳受取証を転記して作成した内部書類であるが、当座勘定取引中に帰属不明の仮名や他人名義の取引が存在する余地がないことは(三)において述べたとおりである。

(六) ⑥新規控簿((一)127、160、262、(二)39、松本祐商事分6)・新規当預金記録表((一)176)について

新規控簿は、新規定契約の預金の口座番号を付番し、重複のないように管理するためのものであり、新規当預金記録表は各種預金科目を取引日ごとに記載し役席に回覧するものであるが、これらに仮名取引における実際の預金者名や他の預金からの乗り換えの事実がメモされているということはない。

新規控簿二綴((二)39、松本祐商事分6)は、うち七枚についてのみ複写物が作成されており、これが関連性を有するとしても、他は関連性がなくその差押えは違法である。

(七) ⑦新規番号簿((一)104、157)について

新規番号簿は、新規の預金契約に際して、当該取引先の口座番号を特定するために使われるものであるところ、これら新規番号簿の付番の状況等により仮名預金を発見することができるということはない。

本件差押えにかかる新規番号簿の複写物は作成されておらず、関連性はない。

(八) ⑧預金証書受領簿((一)128)・証書発行控((一)256)について

預金証書受領簿は、定期預金証書を交付する際にその授受を明確にするために使用されるものであり、証書発行控は、定期預金証書を発行する際にその証書発行を明確にするための証書の左片を控えとして保管するものである。

同一の得意先係担当者等に名義の異なる数冊の証書又は通帳が同時に交付されているような場合には同一人の仮名預金である可能性があるとしても、これを調査するとすれば、事実上すべてを調査対象とせざるをえないことになり、これはいわゆる消去法であり、その調査対象すべてが関連性を有するということはできない。

本件差押えにかかる預金証書受領簿、証書発行控の複写物は作成されておらず、関連性はない。

(九) ⑨預金者名簿((一)112、129、(二)58、60、62、174、175)について

(一)112は、普通預金新規契約の際に口座番号を特定するために使用されるもので、⑦の新規番号簿と同趣旨の書面であり、(一)129は、据置貯金の通帳を発行、交付する際に使用されるもので、⑧の預金証書受領簿と同趣旨の書面であって、いずれも関連性がないことは既に述べたとおりである。

(二)174、175は、定期積金の契約者についての索引簿であるから、後記⑩の索引簿又は⑪の預金者住所録と同趣旨の文書であって関連性がないことはそれらの書面について後に述べるとおりである。

(二)58、60、62は、渉外係の事務引き継ぎに際し、渉外係が担当する取引先が持っている通帳、証書と控訴人の預金元帳との残高照合をするために作成されるもので関連性はない。

預金者名簿に仮名取引を行っている者の実際の住所、氏名が記載されるということは単なる可能性にすぎない。

本件差押えにかかる預金者名簿の複写物は作成されておらず、関連性はない。

(一〇) ⑩索引簿((一)89、126)について

(一)89は、普通預金契約の際に口座番号を特定するものであり、(一)126は、(一)112と同様のものであって、いずれも⑦の新規番号簿と同趣旨のものである。

(一一) ⑪預金者住所録((一)82、102、108、255、263、511、544、545、626、(二)80、120、247、255、327)について

本件差押えにかかる預金者住所録は本店と上野支店の全住所録で、四九冊という膨大なものであるところ、いわゆる消去法による仮名預金発見のため包括的に差押えられたものであって、かかる包括的差押えは許されない。

しかも、(一)82のうち表紙に「庶務係TEL」の表示があるものは、預金者とは関係のない電話帳である。(一)511は、新規取引先として期待される人々の住所録であって、預金者の住所録ではない。それ以外のものも、住所録ではなく索引簿であるので住所の完全な記載はなく、これを使用して預金者に連絡をとったことはなかったから、郵便物の返戻が記載されるということもなく、そのことにより仮名預金を発見するということは不可能である。また、索引簿であるからすべての預金について記載されており、仮名預金について記載されないということはなかったから、これにより仮名預金かどうかを確認するということも不可能である。

本件差押えにかかる預金者住所録四九冊のうち、本件差押えの翌日に三一冊、三日後に五冊、一二日後に一三冊が還付されており、このような還付状況は本件差押えにかかる預金者住所録に関連性がなかったことを如実に物語っている。

(一二) ⑫名寄帳((二)30)について

本件差押えにかかる名寄帳とは、上野支店において、定期預金について世帯主を中心に家族の名寄せをして整理したものであり、すべての預金について作成されているものではないから、これにより預金の存在の確認及び仮名預金の全貌を把握することができるということはない。

(一三) ⑬住所変更届((一)244、(二)166)・改印届((一)529、(二)165、168、261)・紛失届((一)522、(二)167)について

これらの書面に仮名預金の真実の預金者のメモがされていたということは一切ない。

本件差押えにかかるこれら書面による届出は全体の預金者からみればほんの一部の者がしているにすぎないから、これらの届出をしている者は真実の預金者であるとしてこれに基づいていわゆる消去法により仮名預金を発見しようとしても、大部分の預金は消去されないまま残ってしまう。消去法のために必要であるとして犯則嫌疑者と関係のないこれらの書面の関連性を認めることは令状主義を崩壊させるものである。

(一四) ⑭事故届綴((一)526)について

これら事故届綴は、イ控訴人以外の金融機関から東京手形交換所加盟銀行宛に送られた事故手形・小切手に関する通知書、ロ東京手形交換所発行の交換手形関係の統計表、ハ社団法人東京銀行協会よりの通知書、ニ異議申立提供金の返還通知書からなり、このうち控訴人の具体的取引と関係のある文書はニのみであるが、それも本件犯則嫌疑者とはおよそ無縁であることは一見して明白である。

右事故届綴は、本件差押えの翌日複写物が作成されずに還付されており、何らの関連性も有していなかったことは明らかである。

仮に右事故届綴のうち右ニの文書について関連性があると判断されたものとしても、当該文書のみを分離することは可能であり、安易に全体を一括して差し押さえたのは違法である。

(一五) ⑮預金期日帳(一)161、246、248、252、(二)248ないし250)につい

これら預金期日帳は、定期性預金の期日管理のために作成されるものであり、預金契当事者の氏名以外の氏名の記載はなく、仮名預金の真実の預金者名が記載されていたということはない。

また、右預金期日帳は日ごとの一覧式記載になっているものではないから、その記載により解約状況を調べ仮名預金を発見することは不可能といってよいほど困難である。

本件差押えにかかる預金期日帳の複与物は作成されておらず、本件差押えの翌日に大半が還付されており、関連性はない。

(一六) ⑯非課税申告書控((二)317)について

昭和四二年当時の非課税申告は非常に少なかったから、仮名預金者が非課税申告をして税を免れているという例は多くなく、非課税申告書控から仮名預金を発見しうるというのは抽象論にすぎない。

非課税申告の対象預金はほとんどが定期預金であることから必然的に定期預金係が非課税申告を担当することとなり、非課税申告担当者名の調査によって仮名預金を発見しようとすると定期預金係が扱ったすべての定期預金が調査対象となってしまうから、非課税申告担当者名によって仮名預金発見の手掛かりを得られるということはできない。

非課税申告書控に犯則嫌疑者や関係者の筆跡、使用印鑑があることを本件差押えの現場で選別、識別することは不可能である。

本件差押えにかかる非課税申告書控の複写物は作成されておらず、関連性はない。

(十七) ⑰解約届・解約申込書・解約理由書((一)182、240、243、(二)24)・解約回議書((一)154、183、(二)159ないし161、178、180、184、C分6)・解約書類((二)64、269)について

(二)64は、定期預金の中途解約証書であり、後記⑱の解約預金証書同趣旨の書面であって、差押えが違法であることはそこに述べるとおりである。

その余は、名称は色々であるが解約回議書綴であり、定期性預金の中途解約の際に預金者に対し解約理由書を要求しそれを稟議書に添付し内部の決裁文書として作成されるものであり、右解約関係書類に仮名預金の真実の預金者名が記載されていたということはない。

多数の預金が一括解約されていれば同一グループの仮名預金であるとの推定が成り立つとしても、それを発見することは、⑮預金期日帳について述べたとおり不可能といってよいほど困難であり、また本件差押えにかかる右解約関係書類に多数の預金の一括解約が記載されていたということもない。

(二)161、180、C分6のうち複写物の作成されている部分について関連性が認められるとしてもその部分のみ分離して差し押さえることが可能であり、その余は関連性がない。

本件差押えにかかる右多量の解約関係書類の中から関連性のあるものを本件差押えの現場で選別することは不可能である。

(一八) ⑱解約預金証書((一)119、155、171、172、180、181、184ないし202、205、209ないし224、257、(二)144ないし151、315、321)について

右のうち(一)201―3は、定期預金の申込書及び支払済みの証書の綴であり、(一)257は、定期預金の元帳綴であり、その余は解約済みの定期性預金の証書又は通帳である。

右解約済み預金証書等は、ほとんど例外なく、解約時に署名、押印を求めるものであるから、その筆跡、印影から仮名預金を発見しうるとして関連性を肯定すると、解約済み預金証書等はすべて関連性を有することになり無制約の差押えが許容されることになるが、これは令状主義に反する。また、解約済み預金証書等は、出金伝票の代替物ではなく、同時に解約された預金証書を検討することにより仮名預金発見の手掛りとすることができるとすることも抽象論にすぎない。

右解約済み預金証書のうち、被控訴人が具体的に関連性があることを明からにしえたのは、差押えたもののうち極めて僅かな書面に過ぎないものでかかる僅少の関連性を有する差押物件が存したからといって残余の差押えが適法になるということはなく、差押えは全体として違法である。

右差押えにかかる解約済み預金証書等は、選別することなく無差別に差し押さえられたもので差押えは違法である。

本件差押えにかかる右解約預金証書のうち、(二)144ないし151は、全く関係のない第三者の解約済み証書であり、すべて本件差押えの翌日に還付されている。

(一九) ⑲預金債権譲渡による名義変更願書((二)176)について

仮名預金につき債権譲渡をする場合に右預金債権譲渡による名義変更願に真実の預金者名が記載されるということはない。

本件差押えにかかるこれら書面に基づいていわゆる消去法により仮名預金を発見しようとすることも、前記⑬住所変更届について述べたと同様不可能である。

(二〇) ⑳預金元帳((一)58ないし65、70、71、90、91、100、101、117、121ないし123、137、151、152、156、162ないし170、177、178、207、208、247、251、568、B分683ないし688、694、A分686ないし688、691、693、三和企業分684、(二)38、82ないし96、98、99、188ないし190、243、244、266、331、339ないし342、C分4、5、7、10、11、14、15、B分9、12、21、22、松本祐商事分3、11、12)について

右預金元帳は、一〇年間もの長期間にわたる全顧客に関する預金元帳であり、嫌疑者三名について延べ一八〇点という膨大なものであって、本件許可状がこのような包括的差押えを許容しているとは到底解しえない。

仮に本店における本件差押えにかかる預金元帳に三名の嫌疑者に帰属する仮名預金が含まれているとしても、右のように膨大な全預金元帳からみれば九牛の一毛にすぎず、本件差押えにかかる預金元帳は右三名の取引とはかかわりのないものと合理的に推定することができるから、かかる預金元帳の包括的差押えはその一事をもって違法である。

本店における本件差押えにかかる預金元帳は、嫌疑者三名に対する三通の本件許可状に基づき同時に差押えられているが、嫌疑者、嫌疑内容、任意調査の進行程度、嫌疑事実の解明度、強制調査の必要性の範囲などが異なる三件の嫌疑事件につき、一〇年間に及ぶ全預金元帳がすべて一様に各嫌疑事実を証明するに足る帳簿書類として差押えの対象となるということはありえないし、帳薄書類であっても関連性ある部分を分離して差し押さえることも可能であるところ、右のように膨大な元帳を一様に差し押さえたのは無差別、無選別の包括差押えとして違法であり、そもそも選別して関連部分のみを差し押さえる意思すらもなかったものというべきである。

(二一)  預金利子諸税記入帳((一)118)について

預金利子諸税記入帳には同一日に多数の預金者名が記載されているのが当然であるから、預金の解約又は切替え日の同一性に着目して嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりを得ることは困難であり、また、本件差押えにかかる預金利子諸税記入帳に嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりとなるメモ等が記載されていたということはない。

右帳簿のうち二冊は、昭和三二年九月から昭和三七年三月までと昭和三七年四月から昭和三八年三月までの間の帳簿であって、その記載年月日から一見して関連性のないことが明らかである。

(二二)  異例事項簿・違例事項簿((一)74、76、78、80、81、114ないし116、124、158、245、(二)79、207、311)について

右のうち預金の異例事項簿は、小切手不備、印鑑不備、証書若しくは通帳不備等の事項が記載され、貸付の違例事項簿は、申込書、印鑑証明書、割賦弁済用手形、担保差入証等の未提出などの書類(申請)不備や記載上の不備などが記載される。

なお、(一)124は、表紙には違例事項簿と記載されているが、その目的には使用されておらず、既貸付金の利息請求のための計算内容が記載されているにすぎず、(二)79には松永清澄名義の普通預金からの異例扱いの現金払いについての記載があるが、松永清澄という名義は本件差押え前に被控訴人が熟知していた実在の人物の名義であり、これが仮名預金の発見の手掛かりになるということはない。

以上のとおりであって右各書面はいずれも仮名預金発見の手掛かりになるような記載はなく、関連性はない。

(二三)  事故簿(当座預金)((二)309)について

右事故簿(当座預金)に、不渡を防止するため他の預金口座から当座預金へ振り替えるよう預金者に連絡した経過等は全く記載されておらず、またその作成並びに利用目的からしてかかる記載がされる余地もなく、かかる記載を調査することによって仮名預金発見の手掛かりを得るということはできない。

本件差押えにかかる事故簿(当座預金)は、本件差押えの翌日に複写物が作成されずに還付されており、関連性のない物件であったことは明らかである。

(二四)  預金記録表・預金係日報・預金整理簿((一)175、(二)7、163、164、183、251ないし253、B分20、松本祐商事分2)について

これらの文書は定期性預金の日報綴、精査表、であるところ、預金の日報綴に当該預金の契約者の氏名以外に他の氏名が記載されることはなく、また精査表には集計された数字が記載されるだけで氏名の記載はないから、これらの文書に仮名預金の実名がメモされているということはないし、預金の日報綴には、氏名、金額、種別が記載されるだけであって、ある者が従前の預金を解約して別の預金を設定した状況がわかるような記載はない。

右文書により大口預金の設定、解約の状況がわかってもこれが仮名預金発見の手掛かりとなるとはいえず、また大口預金の発見のためにすべての日報を掌握しようとすることは一般探索的差押えとして許されない。

(二五)  週間掛金日報((二)185)・定期積金日計表((一)235)について

これらの文書には入金、出金、残高の各数字のみが記載され、預金者氏名の記載はないから、これが仮名預金発見の手掛かりとなるということはない。

(二六)  取引状態記録簿((二301、306、307)について

これらの文書は貸付の申込みがあった取引先について予備的検討をするため、取引先の業態に異変が生じた場合にその対策をたてるため、新たな預金獲得のため預金、貸付金の取引状況を把握するために作成されるものであって、取引先が仮名預金を設定している場合にその事実が記載されているということはない。

(二七)  残高集計表・残高報告書等((一)67、86、87、206、230、242、670、(二)18、27、35、254、304、B分19)について

これらの文書はいずれも統計資料、集計表、残高報告書の類で簿外取引、仮名預金を解明するに役立つものではない。中元、歳暮等の贈答を決める資料でもない。

また、右文書は、総数一万枚を越える膨大な数量であるが、複写物が作成されたのはわずかに一六枚であり、本件差押えの翌日から還付されている状況に照らすと、無差別的、包括的差押えであったことは明らかである。

本件差押えにかかる以上の文書中に犯則嫌疑者の簿外取引の解明に役立つ記載があるとしても、税法上の質問検査権の行使により明らかにできたものであり、これを尽くさずに差し押さえることは許されない。

(二八)  預金(積金)書抜き綴帳・同元帳((一)173、510、(二)31、33、34、42、45、181)について

右文書は、一〇〇〇枚を越える膨大な数量であるが、複写物が作成されたのはわずかに一一五枚であり、その余の物件は関連性がなかったから本件差押えの現場で選別されねばならなかったものであって、その還付状況にも照らすと、本件差押えが無差別的、包括的差押えであったことは明らかである。

本件差押えにかかる預金(積金)書抜き綴帳・同元帳は、預金の各科目ごとに毎月末の残高を記載し、その残高が総勘定元帳と一致するか照合するために作成される残高集計表の綴りであり、の残高集計表と同じ種類の物件である。

本件差押えにかかる預金(積金)書抜き綴帳・同元帳の中に犯則嫌疑者の預金取引の解明に役立つ記載があるとしても、税法上の質問検査権の行使によって調査すべき事項であって、差押えによって調査すべきものではない。

(二九)  普通預金精査表((一)105)について

犯則嫌疑者が金融業者である場合には大口の入出金がされるということは一般的推論でしかなく、大口の入出金のあった日を普通預金精査表によって把握することにより犯則嫌疑者の仮名預金発見の手掛かりとすることはできない。

本件差押えにかかる普通預金精査表は、普通預金の機械が作動する際自動的にその取引の明細が打ち出されるものであり、その基礎資料は存在せず、また、そこに示されるものは入金、出金の各総額と残高だけであるから、その金額の大小をもって大口預金の入出金のあった日を把握することは困難である。

普通預金精査表に比較的多額の入出金のあった日が記載されることはいくらでもあり、その都度その日の入出金伝票等と照らし合わせをしなければ仮名預金発見のための手掛かりを得られないとすると、そのための差押えは一般探索的調査とならざるをえないのであり、本件差押えの現場においてそのような照合を行うことは不可能である。

(三〇)  月掛積金契約高残高並びに掛込状況表((二)186、松本祐商事分7、10)について

右文書中に掛金の遅延対策に関するメモ等は記入されておらず、これを仮名預金発見の手掛かりとすることはできない。

(三一)  残高証明書((一)534、541、(二)106、107)・残高証明依頼書((二)179)について

右文書は取引先が自己の決算のため税務署、官庁、他の金融機関、自己の取引先等に提出するため控訴人に交付を依頼する預金残高の証明、融資済証明の依頼書、証明書の控えの綴であり、控訴人発行の残高証明には原則として残高証明の依頼人名義(通称名を含む。)のもののみが記載されているのであり、したがって、残高証明書が仮名預金を含めて作成されるということはなく、実名義の残高と比較することによって仮名預金の存在を知ることができるということはありえない。

(三二)  むつみ定期預金書類((二)28)・据置貯金綴((二)61)について

(二)28は、むつみ定期預金の取扱状況及び残高の報告書の綴りであり、むつみ定期預金は金利が低い反面抽選による賞金の交付があるため全信用組合に必ず消化しなければならない預金獲得の枠が決められているため、控訴人の割当額の消化のため各店舗の取扱状況及び残高の求めたものである。

(二)61は、据置貯金の残高集計表の綴りである。

本件差押えにかかるむつみ定期預金書類、据置預金綴において、大口の契約を獲得したときにその個別の顧客名を記載して報告するというようなことは行われておらず、これを仮名預金発見の手掛かりとすることはできない。

(三三)  当座入金支払伝票明細書((二)313、314)について

右文書はいずれも、昭和四二年六月一二日付け東京国税局査察部長名発信の「預金元帳写および入出金の明細等調査書の提出依頼について」なる文書に基づき、控訴人上野支店職員がC名義の「当座勘定元帳写」と「当座預金の入出金の明細」を作成し東京国税局に回答したもののうち入出金の明細等調査書の控えである。

控訴人が東京国税局の任意の調査依頼に基づき回答した回答書の控を差し押さえる必要はなく、また、本件差押えに当たり控えに何らかの書込みがあるかどうかの選別がされたということもない。

(三四)  債権譲渡関係綴((二)73)について

右文書は債権譲渡の通知書ではなく、これに仮名預金の実際の譲渡人名がメモされているというようなことはなく、これにより仮名預金の真実の預金者を明らかにすることができるということはない。

(三五)  借入金申込書・手形割引申込書((一)681、B分690、696(二)346)について

右文書は、いずれも嫌疑以外の顧客の借入金、手形割引の申込書及びこれに関連する資料等であって一見して関連性がないことが明らかなものである。

(三六)  貸付回議書・貸付稟議書((一)566、619、632、638、641、676、A分683、(二)4、5、C分1、13、B分1、18)・貸付関係書類((一)630、(二)211ないし213、松本祐商事分4)について

本件差押えにかかる貸付回議書・貸付稟議者・貸付関係書類は、合計二九九点に達するが、一応関連性を認めうるものは一〇点にすぎず、その余については複写物が作成されず、うち二八七点については本件差押えの翌日に還付されており、本件差押えがいかに包括、無選別のものであったか明らかである。

(一)619の貸付回議書一四〇綴は、本件差押えの当時貸付取引のあった顧客の回議綴であり、顧客別に別個独立のファイルが作られ当該顧客のみに関する貸付回議が順次綴じ込まれているものであって、各ファイルの背表紙には地区、顧客名、組合員番号が明記され、一見してどの顧客のファイルかがすぐわかるようになっている。630、638の文書も同様である。したがって、差押えに際しては、背表紙の記載によって特定嫌疑者の氏名を確認しそれを差押えることをもって足りるのであり、その他の明らかに第三者名義のファイルを差押えることは許されない。しかも、これらの文書は顧客の氏名、組合員番号、取引期間等に分けられ、表紙等に明示されて一見して識別できる状態にあったものである。

(一)676の回議書綴一綴、貸付先のうち延滞となった顧客の回議をまとめて綴じたものであり、嫌疑者とは無関係であることが明らかであって、複写物の作成はなされていない。

(一)632の稟議書綴一冊は、控訴人新宿支店の経費の支払い等に関し本部に決裁を仰いだ稟議書の綴りであり、貸付関係の回議書等には該当せず、一見して嫌疑事実と無関係であることが明らかである。

(三七)  信用調書(控)((二)118、162)について

右文書はいずれも一見して犯則嫌疑者三和企業の犯則事実と無関係な関連性のないものである。

(三八)  債務弁済契約公正証書・根抵当権設定契約証書等((一618、627、B分689、695、)・担保差入証((二)12)・担保品台帳((一)645、646、652、661、662、B分691、692、A分694、695、(二)103、205、345、347、C分17、18、B分25、26、松本祐商事分14、16)、担保関係書類((一)612)について

これらの文書は合計五四三点となるが、関連性を認めうるのは二四点にすぎず、無差別、包括的差押えが強行されたものといえる。しかもこれらの文書の中にはその表紙、袋の上書などから記載内容を容易に選別できるもの、必要な文書を他の文書から容易に分離できる文書が多数存在する。

(三九)  委任状等・公正証書作成委任状綴((一)631、(二)105)について

右文書中には仮名の借入金、他人名義の嫌疑者の不動産等を発見する資料になるような記載は全くない。

(四〇)  担保手形明細表((一)617、(二)204)について

右文書は、比較的少額で多数の手形を担保として融資する際に作成され、組合員番号、組合員氏名、差し入れ日、受付番号、貸付金額、期間、担保証手形の枚数とその合計金額、担保手形の明細が記載されるが、これによって嫌疑者の取引先ひいては嫌疑者の仮名預金が発見されるということはない。

(四一)  割引手形元帳((一)633)・手形(証書)貸付金元帳((一)634、635、B分693、A分696、(二)17、203、204、206、344、C分16、B分10、24、松本祐商事分15)について

(二)204は、実態は割引手形元帳であり、手形(証書)貸付金元帳ではない。

(一)635、(二)206は、証書貸付金元帳であるが、証書貸付金元帳について関連性を裏付ける記載はない。

手形貸付金元帳には、手形の提出日、支払場所の記載はなく、この記載を前提に関連性を肯定することは誤りである。

割引手形元帳には、割引手形の受取人、裏書人の記載はなく振出人の記載から割引依頼人を解明するということも抽象論にすぎない。

貸付けの債務者が架空であっても元帳には真実の債務者がメモされていることが多いということも抽象論にすぎない。

以上右各文書はいずれも具体的関連性がないまま無差別包括的に差押えられたものである。

(四二)  割引料(利息)計算書((一)613、(二)53、218、C分2、松本祐商事分1)について

(一)613の割引料(利息)計算書控帳なる表題のものは存在せず、また、割引料(利息)計算書も、複写にはなっておらず、控えも存在しない。

(二)53、218には、嫌疑者に関係する記載はない。

控訴人においては、名義の異なる手形割引を同時に行い、割引料を合計額で徴収するということはないから、合計額で徴収された割引料の内訳を検討することによって架空名義による手形割引を発見することはできない。

(四三)  貸付金利息帳((一)620)について

貸付金利息帳は、割引料(利息)計算書同種類のもので、利息を徴収するために計算明細書を記録したものであって、架空名義の貸付先について延滞利息を請求するために真実の貸付先名が記載されているということはない。

(四四)  保険関係書類((二)11)について

本件差押えにかかる保険関係書類は、利川武夫、金洙生名義の火災保険証書及び質権設定承認請求書であり、犯則嫌疑者の実名ないし仮名として査察官らが把握していた名義とは全く無縁であることは一見明白である。

(四五)  承諾書関係書類((二)19)について

右文書は貸付取引先の李成達の所有物件の持分変更登記手続に必要な承諾書、控訴人の資格証明書、印鑑証明書であり、連帯保証人となることの承諾書や担保を差入れることの承諾書ではなく、査察官らが予め把握していた犯則嫌疑者の実名ないし仮名と無縁であることは一見して明らかである。

(四六)  貸付金残高証明書綴((二)210)について

右文書のうち複写物が作成されたとされる星野幸平名義のものは犯則嫌疑者と関係がなく、木下金名義のものについても関連性はない。

本件差押えにかかる貸付金残高証明書綴の中に仮名貸付金の存在を知る手掛かりとなるメモ、書類等はなかった。

本件差押えにかかる貸付金残高証明書綴は、ファイルに黒紐で綴ったものであり、これを一括で差押えることは違法である。

(四七)  手形関係ファイル((二)74)・金額未記入の約束手形((二)9、209)について

右各文書には決済の済んだ手形についての記載はないし、これにより架空名義の手形貸付金を発見する手掛かりとすることはできない。

(四八)  手形貸付受付簿((二)102)・証書貸付受付簿((二)115)・貸付予定表((一)111、602、675)・貸付実行表((二)55)について

(二)102は二冊で、一つが割引手形受付簿であり、他が手形貸付受付簿であり、(二)115は証書貸付受付簿である。

これらの右文書には貸付けの実行日や実行金額は記載されていないから、これにより犯則嫌疑者の申込額と実行額との差額がわかるということはなく、その不足分をどのようにして調達したかを犯則嫌疑者に追及することによって未発見の取引金融機関を知ることができるということもなく、さらに、仮名貸付見の手掛かりとすることもできない。

(四九)  回議発送簿((一)614、(二)117)について

右文書は、各店舗から審査部に送付した貸付けに関する回議書の授受を明確にするために作成されるものであって架空名義の貸付けを発見する手掛りになるようなものではなく、架空名義の借入れ申込者の記載がされるようなものではない。

(五〇)  手形貸付金(証書貸付金)記入帳((一)666、669、(二)114、116)・割引手形記入帳((一)668、(二)111)について

右各文書は、正確には①割引手形記入帳((一)668の1ないし3、6ないし15、(二)111)、②手形貸付金記入帳((一)669、(二)116)、③証書貸付金記入帳((一)666、(二)114)、④貸付金期日帳((一)668の4、5)に分類され、①ないし③は各科目の個別の貸付金元帳の内容が貸付日ごとに転記されたもので統計をとるために作成され、①、②は当該手形の管理のためにも利用されるものであり、④は貸付金の期日ごとに貸付金元帳の内容から転記されたもので、貸付金回収のための期日管理に利用されるものであって、いずれも貸付の実行日、取扱者が同一であれば、名前が違っていても同一人に対する貸付であるとして仮名貸付金発見の手掛かりとなるということはない。

(一)669に記載のある「植木秀雄」名義が犯則嫌疑者の仮名であり、「新宿企業」が犯則嫌疑者の実質経営であることは、本件差押えの時点及び差押えの場所で差押え担当者に判明していたのであり、これらを選別せずに一括してなされた差押えは無差別包括的差押えであったというべきである。

(五一)  手形貸付金(割引手形)期日帳((一)663、664、(二)101、112)・期日帳((一)550、551)について

(一)663手形貸付金期日帳一冊及び(一)664貸付金期日帳一七冊の記載年月日は、昭和三二年九月二七日から同三三年四月二二日まで及び昭和三七年一二月一四日から同四三年二月一七までであるが、昭和三二年九月二七日から同三三年四月二二日までのものは明らかに関連性がなく、昭和三七年一二月一四日から同四三年二月一七日までのものも犯則嫌疑の年度のもので足りるというべきである。

本件差押えにかかる期日帳・代金取立手形記入帳に、実際の連絡先が記載されていたということはなく、これにより架空名義の貸付金を発見する手掛かりとできたということはない。

犯則嫌疑者と取引のある者の振り出した手形が犯則嫌疑者以外の者の名義で割り引かれているからといって、その割引依頼人名義が架空名義であるとはいえず、実際の依頼人が犯則嫌疑者でないかどうかを解明する手掛かりとすることはできない。

(五二)  手形記入帳((一)517、518、537、604、625、(二)108、208)・代金取立手形記入帳((一)503、504、514、515、(二)330)について

右各文書に、取り立てた手形代金を受け入れる預金口座が架空名義である場合に、連絡に備えて真実の預金者である犯則嫌疑者の氏名がメモされていたということはなく、そのような事実が存在することを裏付けるものはなく、既に発見されている犯則嫌疑者の仮名預金口座に入金されている取立て手形と同一人の振り出した他の手形が取り立てられていることを記載した部分が存したということを裏付ける資料もなかったのであるから、これらを根拠に仮名預金発見の手掛かりということはできない。

(一)503のうちの一冊の一部分に犯則嫌疑者振出の手形が他の者によって代金取立依頼がなされた旨の記載があるが、これは昭和三七年、三八年に使用された帳簿であり、犯則事実と関連性のないことが明らかな帳簿であり、また、一部にかかる記載があるからといって本件差押えにかかる手形入帳、代金取立手形記入帳全部いついて関連性を認める根拠ともならない。

(五三)  交換持出手形記入帳・交換手形記入帳((一)501、502、552、(二)329)について

右各文書は、昭和三八年から昭和四二年までの五年間の控訴人の取立てにかかる手形、小切手一切が記載されている膨大な数量の帳簿について関連部分を分離できるにもかかわらずその全部が差し押さえられたものであり、しかも、嫌疑内容、嫌疑年度、業種が全く異なる三嫌疑者について同時に関連するものとして差押えがなされているが、かかることは到底あり得ることではなく、包括、無差別差押えであることは明らかである。

右各文書の特定簿冊の特定記載部分により、特定嫌疑者の特定期日における特定の手形、小切手が嫌疑者の実名及び仮名預金に分散入金となっている事実が明らかとなり、嫌疑者の仮名預金が発見できたということはない。

(五四)  交換持出手形不渡記入帳((一)547)・不渡手形控帳((一)546、601、665、(二)113)について

交換持出手形不渡記入帳とは、の交換持出手形記入帳((一)501、552、329)に記載された手形、小切手のうち、不渡りとなったもの全部が記載されるものであって、主として不渡処分の届出処理に利用されるものであり、不渡手形控帳は、右の交換持出手形不渡記入帳に記載されている不渡手形・小切手のうち、貸付に関するものと、他行に取立もしくは再割引したもののうち、不渡りとなったものが記載され、貸付係における不渡手形・小切手の管理のためのものであるから、両者が同じ内容ということはなく、架空名義預金発見の手掛りになるような文書ではない。

(五五)  交換受入手形不渡記入帳((一)548、(二)310、323、B分14)について

右各文書は控訴人の取引先が振り出した手形・小切手が決済できず不渡りとして返還される場合に作成されるものであるが、かかる記載がされるのは、取引先に入金を促し、営業時間内に入金がないしきにはじめて不渡処分の手続をとり右文書に記入されるのであって、残高不足があるといったん機械的に不渡りとして交換受入手形不渡記入帳に記入し、その後入金があればこの記載を抹消するということはありえない。また、残高不足の場合には、現金で入金させるのが現実であり、他の預金から振り替えさせるということはない。したがって、交換受入手形不渡記入帳にいったん記入された不渡りの記載の抹消の事実や不渡り回避のために振り替えに使用された預金口座を検討することによって仮名預金を解明できるということはない。

(一)548のは、昭和三八年一〇月から昭和四一年一二月までの、(二)B分14は、昭和四〇年四月から同年八月までの広範囲の作成期間のものであり、本件差押にかかる交換受入手形不渡記入帳全体の量は二〇〇〇枚を越える大量なものと推定され、何ら選別することのない無差別、包括的差押えであったことを示している。

(五六)  期日経過貸金回収日報((一)605)について

右各文書は仮決算、決算、年末を期して延滞貸付金の回収を促進するため、当該時期に期日が経過している貸付金のうち現実に回収した元金、利息について、日報として事実経過を記載しているものであって、回収された元金、利息の債務者の名は記載されるが、架空名義や他人名義の貸付金について実際の請求先、集金先がわかるようになっているというものではないから、これにより仮名貸付発見の手掛かりとすることはできない。

本件差押にかかる期日経過貸す金回収日報は、ファイルに黒紐で綴じられているものであるから、必要部分を分離して抽出することも可能であった。

(五七)  相殺性貸金月報及び回議書類((一)607)・期日経過及び相殺性貸出金明細書((一)565、609、674、(二)226)について

右各文書のうち、回議書の一部、月次延滞貸金回収計画表は、相殺性貸出金とは無関係なものであり、また、相殺性貸出金に関係するものも、相殺の事実を貸付先に通知する必要から作成されるものではない。したがって、これらの文書に相殺の事実を貸付先に通知する必要から架空名義の貸付先であっても実際の貸付先名又は連絡先が記載してあるということはなく、これに相殺適状の預金のほか将来期日が到来する他の預金についてもメモされているということはないから、これを検討することにより仮名預金又は架空名義の貸付先を発見する手掛かりとなるということはない。

本件差押えにかかる相殺性貸金月報及び回議書類・期日経過及び相殺性貸出金明細表には、貸付日、返済日、使用印影の欄はなく、担当者名も記載されていないから、これらの同一性から架空名義分を明らかにするということもできない。

(五八)  分類貸出金明細書((一)672)について

右分類貸出金明細書に記載される貸出先はすべて実名義であり、犯則嫌疑者又は関係人の名前は一切記載されていないから、差押えの現場で関連性の有無を検討すれば、関連性のないことは容易に判別できたはずである。しかるに差押えを強行したのは現場での選別が全くなされていないことの証左である。

(五九)  貸付(貸出金)残高集計表((一)139、608、622、623、671)について

右貸付(貸出金)残高集計表に預金の内容が記載されてないことは一見して明らかであり、貸金の担保となる預金について債務者本人名義のもののほか家族名義、架空名義など実質的に当該貸付先に関するものが記載されているということはありえないし、架空名義の貸付けがある場合に同一人に帰属するものである旨の表示がされているということもない。したがって、これらの記載が犯則嫌疑者の架空名義の借入金を発見する手掛かりとなるということはない。

(六〇)  大口債権調((二)100)について

右大口債権調査は、監督官庁である東都に提出する預金額を超える貸付先に関する定期報告書であるところ預金額を超える貸付については、当然に印鑑証明等を徴求し、債務者の確認がなされ、また回収すべき貸付金の保全がされているから、架空名義の貸付金が記載されているということはありえず、関連性のなかったことは明らかである。

(六一)  現金収支残高表・現金収支在高表((一)505)、(二)328)・支払帳((二)334)について

現金収支残高表・現金収支在高表は、出納係が当日の収納帳と支払帳に基づいて、伝票による入、出金を正確に、毎曰記載するものであって伝票上入出金となっていても現金収支残高表・現金収支在高表に記載されない場合があると、現金収支残高表・現金収支在高表に添付する収納帳、支払帳記載の伝票枚数と庶務計算係で集めた伝票枚数並びに金額が合わなくなってしまい、締めのやり直しをしなければならないだけではなく、その原因究明が複雑なことになるから、伝票の入出金はすべて現金収支残高表・現金収支在高表に記載されていたのであり、従前の預金を払い出して直ちに別の仮名預金を設定した場合に伝票上は現金による入出金を装っていても現金収支残高表・現金収支在高表に記載されないため新たな仮名預金を発見できるということはあり得ない。

(六二)  不渡撤回依頼書・不渡回収依頼書((一)52、226、543、615、653、(二)316)について

不撤回収依頼書・不渡回収依頼書とは、手形が持出銀行から手形交換所を経由して支払銀行に廻付されたが、資金不足等の事由で決済されないため取引停止処分となる場合に、呈示日の翌日の営業時間内に限り、手形金を持参して当該不渡手形を買い戻すことができることとされ、その際、不渡りの撤回を求めて提出されるものである。

不渡手形を買い戻すのは通常は振出人であり、例外的に所持人が支払を猶予するため不渡撤回依頼書・不渡回収依頼書を提出することがあるが、極めて稀でありその場合も、右手形によって預金に入金がされている場合の不渡撤回の依頼人は、必ず当該手形が入金された口座の名義人であって、真実の預金者の氏名が記載されることはない。したがって、不渡撤回依頼書・不渡回収依頼書の記載によって架空名義の預金を発見しうるということはあり得ない。

(六三)  返却手形控帳((二)119)について

右返却手形控帳には手形の返却日は記載されないから手形の返却が一時になされたかどうかを窺い知ることはできない。したがって、名義の異なる貸付金の返済が数日にわたって行われている場合であっても手形の返却が一時になされているものについては同一人に対する貸付金であると推測でき架空名義の貸付金を発見する手掛けかりとすることができるということはない。

(六四)  不渡手形授受簿((一)536)・不渡小切手手形受領控帳((一)611)について

右文書は、不渡手形・小切手を取立の依頼者に返還するときに受領印を押捺してもらう帳簿にすぎず、これに架空名義依頼者の連絡先が記載されているということはないし、同時に発生した不渡の事実から架空名義の取立預金口座発見の手掛かりとすることもできない。さらに、本件差押えにかかる不渡手形授受簿・不渡小切手手形受領控帳に押捺されている印鑑につき、実名義の印鑑が押捺されているとか、異なる取立依頼者名義のものに同一の印鑑が押捺されているとかいうこともない。したがって、本件差押えにかかる不渡手形授受簿・不渡小切手手形受領控帳が架空名義の取立預金口座発見の手掛けかりになることはない。

本件差押えにかかる不渡手形授受簿・不渡小切手手形受領控帳は、三嫌疑者の関係で差押えられているが、嫌疑事実、嫌疑年度等が全く異なる三嫌疑事件につき一様に関連性が認められ得べきはずもなく、手当たり次第の差押えであることを示している。

(六五)  手形・小切手((一)516、(二)241、325、326、B分4)について

控訴人の本店及び上野支店を併せ七名の嫌疑者及びその取引先の使用していた印鑑が本件差押えに従事した一四五名の査察官に予備知識として与えられていたはずはなく、差押えの現場で本件差押えにかかる手形、小切手の振出人、裏書人の押印が嫌疑者及びその取引先の印鑑と同一であるか否かを選別することは不可能であるから当初から選別の意思なく無差別に差押えられたものである。

本件差押えにかかる手形・小切手の一部については、嫌疑者及びその取引先に関係するものとして複写物が作成されているが、犯則嫌疑事実を証明するものといえるか、また、強制調査によって差押える必要性があったか否かは疑問であり、かつ、これら複写物が作成された物件は分離可能であったから、これ以外の多量の手形、小切手の差押えが正当化されることはない。

(六六)  代金取立手形預り証((二)51、320)について

右文書は取引先から手形、小切手の取立依頼がなされた際に取立依頼人に交付する預り証であり、これに真実の取立依頼人名がメモされることはない。

(六七)  代手振込帳((二)332)について

本件差押えにかかる代手振込帳とは、控訴人上野支店の取引銀行である富士銀行雷門支店に取立てを依頼した地方手形、小切手の決済についての富士銀行雷門支店からの電話連絡の内容を記載したものであって、これに取立依頼人の連絡先の電話番号、実際の名前等が記載されているということはない。したがって架空名義の取立依頼人を解明する手掛かりとすることができるということはない。

(六八)  取立手数料領収証綴((一)542)について

右文書は、控訴人が取引先(依頼人)より代金取立ての依頼を受けた手形、小切手のうち、東京手形交換所以外の交換所で扱われる手形、小切手の取立てを控訴人の取引銀行に依頼した際に控訴人が依頼先の取引銀行に支払った取立手数料の領収証であって真実の取立依頼人の名を記載するようなものではないから、架空名義の取立口座を発見する手掛かりを得ることができるということはない。

(六九)  東京都公金原符綴((一)539)いついて

右文書のうちの固定資産税都市計画税に関する原符五四枚の中で納入義務者又は納入者の氏名が記載されているのはただの二枚にすぎず、しかもそれに記載されているのは控訴人理事長名であって、犯則嫌疑者の名はない。したがって、仮に固定資産税の原符によって犯則嫌疑者に帰属する固定資産税の存在が明らかとなるとしても、本件差押之に際して選別点検が行われていれば、本件差押えにかかる固定資産税都市計画税に関する原符が差し押さえられることはなかった筈である。

本件差押えにかかる東京都公金原符綴によって、仮名預金からの払出金によって全額納付されていることが判明することはなく、また、納付額に見合うその日の出金伝票を点検することによって仮名預金発見の手掛かりを得るためには、時間と労力を要する複雑な作業を必要とし、本件差押え時に現実にできるわけはない。

(七〇)  現金受領簿((一)260、(二)110、)・仮領収控((二)49、224、225、242、324)・仮証((一)135、(二)50、319)について

右のうち現金受領簿とは、顧客と控訴人職員との間で現金が授受された際に作成されるものではなく、控訴人の預金係あるいは貸付係と渉外係との間での現金の授受の際に作成されるものであるから、架空名義がメモされているということはない。

また、仮領収控・仮証に、架空名義がメモされていたことはないし、実名義と架空名義分についてそれらを併せて一連の領収証が発行されていたこともない。

(七一)  領収証((一)616、(二)13、48、201、222、230、318)・諸経費記入帳((一)532)・諸経費領収証((一)521)について

右各文書は仮名預金発見の手掛りとなるような記載のない文書である。

(七二)  集金カード((二)23、63、C分9)・貯金カード((二)57、59)・延滞積金整理カード((二)68、69)について

右のうち集金カード・貯金カードは、渉外係が自已の担当している区域の取引先から定期性積立金の集金をした際に集金の事実を明らかにするため押印するカードであるところ、これらの文書が仮名預金把握の資料となることはあり得ない。

本件差押えにかかる集金カード・貯金カード・延滞積金整理カードは、差押えの現場で選別されておらず、後に選別分離されたと思われるカード一枚があるが、この分離によって残りの差押えは不要となった。

(七三)  積金日掛月掛集金状況表・積金集金状況表((一)174、253、254)について

右文書は、預金係が日掛、月掛の残高を集計して作成した表であり、集金担当者がその日の入金額、未収額等を整理記録した書類ではないから、実際の集金先が記載されているということはない。

(七四)  個人別契約高及び解約高報告書((一)241、(二)14、32、158)について

右文書は渉外係の手当支給のための資料として、各渉外係ごとに当該渉外係が獲得した定期性預金の明細及びその後解約された定期性預金の明細を明らかたするため、預金係が当該預金元帳に基づき作成したものであり、預金者ごとに作成されるものではないから、仮名預金に関する記載はない。

(七五)  預金増強運動関係書類((二)B分2)・預金増強集団工作報告書((二)235)について

右預金増強運動関係書類は、昭和三七年末の年末預金増強運動に関する資料であって、嫌疑者Bの嫌疑事件(昭和三九、四〇年分)の二年も前のものであり、また、右預金増強集団工作報告書は、昭和三七年八月に預金増強運動を実施した際の資料であって、三和企業の嫌疑事件(昭和四〇ないし四二年分)の三年も前のものであるから明らかに関連性がなく、包括的、無選別差押えである。

右預金増強運動関係書類に、預金者に対する贈答品の配布基凖等が記載されていたということはなく、また、右預金増強集団工作報告書に、預金者ごとに実名義、架空名義を含む預金残高、預金者の資金繰りの状況、預金獲得目標額、贈答品の内容等がリストされていたということもないから、これらの記載から仮名預金発見の手掛かりを得られということはない。

(七六)  渉外活動成果報告書類((二)187)について

右文書は渉外係の給与の算定資料に利用するため渉外係の毎日の集金高と新規に獲得した預金高を把握し記載したもので、集金業務に関しては当日集金分の総計の数字が列記されるだけで預金者の氏名は一切記載されず、新規に獲得した預金者についてのみその氏名が記載されるのであるから、これを検討することによって仮名預金を発見することができるということはない。

本件差押えにかかる渉外活動成果報告書類は、昭和四二年一二月のものであって、犯則嫌疑者三和企業の調査対象年度後のものであり、関連性の有無の識別は一見して明白であったにもかかわらず差し押さえられたのは、舞差別、包括的な差押えであったからにほかならない。

(七七)  渉外係事務引継書類((二)233)について

控訴人においては、渉外係の事務引継の際に作成される書類としては「集金照査表」以外には存在せず、担当していた得意先の預金特に仮名預金の状況、事業の内容、趣味、性格についてまで記載することはないから、引継書類を調査することによって仮名預金を発見することができるということはない。

(七八)  仮払金記入帳((一)533、(二)302)について

右文書は仮払金を記載した帳簿であるが、預金者から預金の払戻金を届けるよう依頼された場合や預金者から端数のついた金額を預金するから釣銭を持って来るよう依頼された場合にこれを仮払金として処理し、記載するということはあり得ないから、そのような仮払いの処理、記載が行われることを前提に、そのような仮払いの行われる相手先は金融機関と親密な又は影響力の強い預金者であるとして仮名預金を発見する手掛りにするということはあり得ない。

(七九)  仮受金記入帳((一)531、667)・仮受金月末統計((一)527)について

右仮受金記入帳のうち、(一)667―1は仮払金記入帳であるから、これを仮受金記入帳として差し押さえることは誤りである。

(八〇)  本支店勘定元帳((一)506、530)・本支店交換勘定月末状況表((一)528)について

右文書のうち本支店勘定元帳は、本支店相互間に生じた貸借を決済するための帳簿であり、主として交換持出手形、交換受入手形、店舗相互間の送金等が記載されているが、これに税務調査による発覚を避けるため無記名又は架空名義の預金者が他の支店に預金を移し替えた事実が記載されていたということはない。

また、本支店交換勘定月末状況表は、手形交換所に提出する統計資料であり、計数の列記以外の記載は全くない。

また、本支店勘定元帳は、昭和三六年五月から同年九月まで、同三七年一二月から同四二年三月までのものが一括して差し押さえられており、嫌疑対象年度を著しく逸脱している。さらに、右文書は三和企業ほか二名の嫌疑者に共通するものとして差し押さえられているが、嫌疑事実及び嫌疑年度からして、三者に共通して関連性を有するなどということはあり得ない。

(八一)  本支店移管稟議綴・本支店移管回議書等((一)535、657、(二)109、169、170)・亀戸支店移管預金集計表((二)40)・移管明細((一)513)・移管書類((二)237)について

本件差押えにかかる亀戸支店移管預金集計表・移管明細・移管書類は、新たに支店が設けられた場合に新設支店に預金等を移管するために作成されたものであるが、本支店移管稟議綴・本支店移管回議書等はそのような書類ではない。また、右移管関係書類についても、金融機関の役員又は大口預金者に対しては支店開設にあたって新たな預金の設定を依頼したり預金の移し替えを依頼したりすることが多いから移管関係書類を調査することによって仮名預金を含めて当該預金の全貌を明らかにすることができるなどというのは、あいまいな抽象論にすぎない。

また、亀戸支店移管預金集計表は、昭和三八年に、本件差押えにかかる移管書類は、昭和三五年に、それぞれ作成された書類であり、その作成時期からみて、一見して三和企業の嫌疑対象年度以前のものである。

(八二)  仮決算書類・決算書類・決算第一段階資料・仮決算統計書類・決算報告書・仮決算報告書((一)507ないし509、(二)25、43、171、267、268)について

右各文書のうち被控訴人が関連性を明らかにしているものはごく一部にすぎず、嫌疑対象年度以外のものまで差し押さえたことは、包括的、無差別的な差押えといわざるを得ない。

嫌疑者Aにかかる差押えについては、任意調査で既に得た資料以外のものはなかった。

(八三)  月報((一)637、673、(二)15、29)について

右各文書において預金、貸付金の残高が口座別あるいは預金者ごとに記載されているということはないから、大口預金者についてはその預金高を把握するため名義のいかんを問わず真実の預金者が誰であるかがわかるようになっているということはなく、仮名預金を発見する手掛かりとすることができるということはない。

(八四)  統計資料((一)606、(二)26)について

本件差押えにかかる統計資料の中に、得意先係担当者ごとに預金獲得高及びその明細が判明するものは一つも存在しないから、得意先係の集金による預金の入金が伝票上窓口扱いとなっている場合には仮名預金である場合が多いとして、仮名預金を発見する手掛かりとなるということはない。

(八五)  総務関係文書綴((一)538)について

右文書中に、保護預りに関する文書、配車表、贈答、接待にかかる事項を記載した文書は編綴されていないから、これらの文書により仮名預金を発見する手掛かりとすることはできない。

右文書は、昭和三三年一月二七日から昭和三六年八月二一日までに作成されたものであって、本件犯則嫌疑者にかかる嫌疑事実の一〇年ないし七年も前のものである。

(八六)  御中元名簿((二)232)・優良取引先名簿((二)234)について

右文書のうち御中元名簿には、昭和三八年、昭和四〇年の御中元、御歳暮、昭和四一年の御中元を配布すべき対象者について、A、B、Cのランク別に記載されているが、右ランクは預金の多寡のみで決まるものではないから、贈答品ランキングの基準額と実際名義の預金額の差を検討することにより架空名義、無記名の簿外預金を知る手掛かりとすることができるということはない。

また、優良取引先名簿は、一定額以上の預金者の名簿ではないから、その基準額と嫌疑者が有している実際名義の預貯金の差を検討することにより架空名義、無記名の簿外預金を知る手掛かりとすることができるということもない。

(八七)  預金通帳((一)106、107、109、110、232、A分689、690、(二)152、155ないし157、264、C分8、B分3、11)・預金証書((一)231、556、647、ないし651、(二)121ないし125、127、ないし129、131ないし139、142、143、259、260、263、C分12、B分15、16、松本祐商事分8)・出資証券((一)555)について

右各文書は総計四九点、二二八個もの大量なものであるが、そのうち嫌疑者ないし関連先とされる者の具体的取引の記載があるのはわずか一一点、一七個にすぎない。

預金者が仮名預金を発見されないよう隠蔽の手段として通帳、証書を金融機関に預けるということは極めて希有の事例であり、控訴人が保管していた本件差押えにかかる預金通帳、預金証書、出資証券は、仮名預金隠蔽の手段として預けられたものではなく、保管者が残したメモ等に真実の預金者名が記載されていたということはない。また、本件差押えにかかる預金通帳・預金証書・出資証券における印影や入出金の状況と既に把握している印影や預金の入出金とを対照することにより預金の帰属が解明できるとか、貸付の担保とするため預かって手続中の預金証書の裏面の印影と既知の印影の対照や実名と架空名義の預金証書を一括保管している等の状況から真実の預金者が解明できるとかいうことはなく、そもそもかかる解明作業そのものがなされたこともない。

(八八)  当座勘定入金帳((二)78、199)・当座預金入金控((一)66)について

控訴人においては、当座預金の与信契約としての性格上、開設には顧客を厳選しているから、帰属不明の架空名義の当座預金は存在しない。

控訴人右当座勘定入金帳を保管していたのは、あくまで当該取引先が入金帳をいちいち持ち運ぶことなく店頭での入金を済ますための単なる取引先の便宜上の理由にすぎず、また、当座預金入金控を保管していたのも、他店からの送金があった場合に作成された当該入金控を当該取引先に交付するため保管していたものとか、電話による他の預金からの入金依頼などの場合に作成され取引先に交付すべく保管していたものなどであって、預金者が税務調査により仮名預金を発見されないよう隠蔽するためであるなどということはなく、仮名預金発見の手掛かりとなるようなものではない。

(八九)  印鑑((一)110、557、561、(二)70、153、335、)について

右印鑑は、顧客から預金の支払いを依頼された場合に預ったものか、定期預金の書き換え・継続のために預ったものか、控訴人の職員個人のものと考えられ、仮名預金に使用されたものではないから、仮名預金の解明に役立つものではない。

(九〇)  ノート((一)77、79、125、636、678、679、(二)221、238、265、B分17)・活動日誌((二)8、223、240、)・メモ((一)132、138、140、(二)47、54、193、214、217、219、239、B分6、8、23、松本祐商事分5、9、13、)・メモ帳((一)136、143、236、258、259、(二)256、257、)・雑記帳((二)松本祐商事分308)・未整理事項((二)B分5)・忘備録((二)B分7)・日誌・日記((一)554、564、(二)216)・カレンダー((二)227、305)・手帳((一)562、(二)191、229、343)について

右各文書に、正規の帳簿書類に記載されないような預金の帰属に関する事項等が記載されており、仮名預金、無記名預金の真実の預金者を解明する手掛かりが存在したということはない。

(九一)  出向簿((二)75)について

右文書は内勤の職員が外出する際にその行先、用件、日付、所要時間等を記載したものであり、主に担当の渉外係と連絡がとれない場合の取引先からの依頼による集金、貸付係において事業調査、担保調査等のため外出する際に記載され、自己の担当役席の承認を得るために作成されるものであって犯則嫌疑者宅を訪問した際の記事が記載されているようなことはないから仮名預金を発見する手掛かりを得ることができたということはない。

(九二)  手控帳((一)A分692)について

右文書は手帳に一部の取引先についての預金をメモした覚書的なものと考えられ、これに特定の預金者が設定した預金の全貌が漏れ無く記載されており、犯則嫌疑者が仮名預金を設定している場合であっても、その記載によってその帰属を明らかにすることができたということはない。

(九三)  雑書類・机中資料((一)135、553、559、560、639、(二)41、200、202、220、228、303、312)について

右文書のうち(二)41の中に犯則嫌疑者に関係する振込受入表二通があるが、同書面に出ている名義は本件差押え前に既に被控訴人が掌握していたものであるから、差押えの必要性がなく、その余の本件差押えにかかる雑書類・机中資料には、正規の帳簿等には記載しないような断片的な記事で仮名預金を発見するための手掛かりとなるようなものが記載されていたということはない。

(九四)  本部通達((一)512、(二)72)・回覧綴((二)36)について

右各文書中に仮名預金の隠匿の方法等について本部通達によって各支店に指示をした書面なるものが存しないことは、差し押さえられた文書の標題をみただけで明らかである。

(九五)  他行交換手形添票((一549)について

右文書は手形、小切手を手形交換所へ交換のために持ち出す際に、相手先の金融機関ごとに手形、小切手の枚数及び合計金額を記載する書類であり、控訴人においては、手形、小切手の交換持出の手形、小切手は、すべて交換持出手形記入帳に記載されており、その間に不一致はない。したがって、他行交換手形添票の金額と交換持出手形記入帳に記載された金額の集計額を照合することによって記帳漏れの内容を追跡調査することができ仮名預金発見の手掛かりを得ることができるというようなことはなく、現にそのような調査がされたということもない。

(九六)  交換加盟一覧表((一)629)について

右文書は正式名称を「手形交換加盟銀行及代理交換委託者一覧」といい、手形交換所に加盟している金融機関及び交換委託している金融機関の名簿であって、金融機関の便宜のために手形交換所が作成した公開の印刷物であり、加盟金融機関はすべて所持しており、被控訴人も容易に入手することができるもので差押えの必要性のないこと明らかなものである。

(九七)  国民貯蓄組合関係資料((二)172)について

右文書は、全国信用組合中央協会から会員信用組合に配布された国民貯蓄組合の運営及び事務取り扱いについての通知等を綴った資料であり、顧客の名義の記載はあり得ないから、右資料によって犯則嫌疑者が国民貯蓄組合に加入していたかどうかが判明するということはない。

(九八)  経過年度保管書類内訳表((二182)について

右文書は、控訴人上野支店で保管されている昭和三六年以前の帳簿書類について、後日当該帳簿書類を必用に応じて捜し出すのを容易にするため及び保管書類の内容を明らかにするために作成されたものであり、犯則嫌疑者三和企業の関係で差し押さえられているが、その犯則嫌疑事実年度が昭和三九年一〇月一日から昭和四二年九月三〇日までの所得にかかわるものであって、何ら関連性のないものである。

(九九)  読報出席簿((二)194)について

右文書は、控訴人上野支店において、職員が毋国語の朝鮮語の習得、祖国の歴史、風習等を学ぶために読書会を組織し、その出欠を確認するために作成されたものであって、信用組合の業務上作成されるものではないから、顧客との取引が記載されることはなく、余白に仮名預金等の書込がされていることがあるということはない。

(一〇〇)  親展封書((二)198)について

右文書は、控訴人上野支店の渉外係であった慎高伸の机中にあった控訴人の業務とは何ら関係がない同人宛の私信の親展封書であり、右封書の発送人が犯則嫌疑者三和企業に関係するということもない。

(一〇一)  都特別融資要項綴((二)236)について

右文書は、控訴人本部から各店舗宛の本部通達、東京都経済局金融貿易部長から、信用組合代表理事宛の通達、全国信用協同組合連合会の通知、東京都信用保証協会の通知、貸付金明細、稟議書の六種類の文書を紐で綴り込んだものである。貸付金明細以外は、融資に関する要綱ないし通達であるから、犯則嫌疑事実につながる手掛りにもならないことは明らかである。貸付金明細には、債務者と保証人の氏名が記載されているが、これらの人名が犯則嫌疑者であるからどうかは一見して判別できるうえ、そこには融資対象事業所などの記載、融資申込人からの申請書類の編綴はないから、融資対象事業所がどこかなどはわからず、まして、その事業所が犯則嫌疑者の他人名義のものであるかどうかなどわかるものではない。

(一〇二)  L名義・A名義関係書類((一)A分684、685、三和企業分683)について

右各文書は、貸付に際し控訴人が取引先から徴求した貸付関係書類一式であり、の貸付関係書類のうちの(一)630やの担保関係書類(一)612と内容的に同一であるから、関連性が認められる理由も同一でなければならないのであり、異なった理由を挙げることは許されない。

(一)A分684は、Aの弟のUにかかる貸付関係書類であり、(一)A分685は、Aにかかる貸付関係書類であるから、関連性は一応肯定し得るであろうが、A関係の任意調査においては、控訴人からかなりの程度の協力が得られ、仮名預金の把握ができていたのであるから、差押えの必要性はなかった。

(一)三和企業分683は、Lの弟のi名義の貸付関係書類であるが、iはLとは独立した別個の事業主体であって、関連性のなかったことは明らかである。

(一〇三)  交換支払手形内訳表((一)225、(二)333)について

控訴人においては、控訴人が支払場所となっている手形、小切手を手形交換所で決済したことはなく、委託金融機関である商工中央金庫に開設した口座で交換決済を行う代理交換による決済手続をしているのであるから、右各文書に手形交換所で決済された手形、小切手が記載されるということはない。

本件差押えにかかる交換支払手形内訳表には、個別的な手形の内容や取立依頼人の氏名等は記載されず、手形、小切手等の合計枚数、合計金額のみが記載されるにすぎないものであり、の交換持出手形記入帳・交換手形記入帳やの交換持出手形不渡記入帳・不渡手形控帳の記載内容とは全く異なるものである。

(一〇四)  交換関係書類((一)610、(二)44)について

控訴人においては、手形交換所での受取勘定と支払勘定の差引残高を算出した手形差引票は存在しておらず、本件差押えにかかる交換関係書類の中に手形差引票が含まれているということはない。

仮に一部必要性のある書面があったとしても、黒紐で綴じられた文書で容易に取り外すことができるものであるから、分離してその文書だけ差し押さえるべきであったのであり、他の明らかに関連性のない多数の文書を差し押さえたことは違法である。

(一〇五)  手形交換所諸報告書((一)524)について

右文書は、東京手形交換所に提出された統計書類であり、不渡届、不渡人名簿ではない。

仮に本件差押えにかかる手形交換所諸報告書が不渡届、不渡人名簿であったとしても、貸倒金の損金計上の認否、損金計上の時期の判断のために必要ということはない。すなわち、損金の認定について問題があるのであれば、税務当局は資料を要求すればよいのであって、損金としての認定を受けようとする者は、積極的にその資料を提出するのが通常であり、仮にその提出がない場合には否認すれば事は足りるのである。

また、不渡届、不渡人名簿に、不渡の連絡を取立依頼者にするためのメモが記載されているということもなく、それから架空名義の預金の存在がわかるということもない。すなわち、取立依頼者の連絡先は入金された預金の元帳あるいは索引簿に記載されており、メモする必要は全くないのである。

(一〇六)  不渡手形返還添票((一)643)について

手形交換所を経由して呈示を受けた手形、小切手が残高不足等により決済ができないと判明し、これを再び手形交換所を経由して持出銀行に返還するに際し、交換業務を迅速、簡易に行うため、不渡手形、小切手を交換所に加盟している金融機関ごとにとりまとめ、手形、小切手の枚数、手形、小切手金額の合計額、相手方銀行名、当方銀行名を記載した票を添えて返還することとされているが、この添票の控をファイルしたものが右文書である。したがって、右文書には個々の手形の振出人や金額、不渡原因等の記載はないから、仮名預金発見の手掛かりとなるものではない。

(一〇七)  集金控帳 ((二)192)について

右文書は、渉外係が、主に積金の集金業務をより正確にかつ集金の伝票処理を容易にするために使用するものであり、取引先で集金した場合に、口座番号、日掛・月掛の別、通帳に記載されている契約者の氏名、金額を記入するものであって、それ以外の記載はあり得ないし、預金者の実名、口座等がメモされているということはないから、これが犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりとなるということはない。

(一〇八)  入金送金領収書綴((一)523)について

右文書は、控訴人が預け先銀行に入金したときに預け先銀行が発行した入金明細票、為替業務を取り扱っている取引銀行に依頼して行った為替送金の際の明細票、控訴人が支払った手数料の領収証等、取立、他行の印鑑簿送付等の依頼書、控訴人が取引銀行に手形、小切手の代金取立の依頼をした際に取引銀行が発行した明細票、顧客から依頼され国税を納付した際の領収証や交換事務上の違算の処理から生じる違算金の領収証等、外貨両替を依頼されて取引銀行に持ち込み外貨両替をしてもらった際の明細票、東京都公金受取書等が黒紐で綴じられたものである。

右文書に、送金を依頼された際に発行した領収証の控えが含まれることはあり得ず、これら領収証に送金依頼者の連絡先がメモされており、偽名で送金した場合の実名を把握することにより犯則嫌疑者の仮名預金を発見する手掛かりを得られるということはあり得ない。

(一〇九)  仮払金元帳((二)B分13)について

右文書は、庶務計算係が主に経費の一時立て替え、本部が支払うべき出資配当金の一時立て替え、両替金の一時立て替え等の場合に仮払金を記載するのに使用する帳簿であり、交際費を経費として会計処理するための領収証等の必要書類がそろっていないときに一時仮払金として処理するための元帳ではない。したがって、これに基づき大口預金者に対する贈答の内容を調査し、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりを得られるということはない。

(一一〇)  損益勘定内訳表((一)519)について

右文書は、損益勘定内訳表と合計残高日計表が綴られたものであり、損益勘定内訳表は、当該店舗の損失と利益の合計数字を、合計残高日計表は、当該店舗の資産と負債の合計数字をそれぞれ総勘定元帳から転記したものであって、いずれも合計数字が記載されているのみであるからこれによって犯>則嫌疑者に帰属する大口の実名預金の内容を正確に把握することができるということはない。

本件差押えにかかる損益勘定内訳表は、昭和三二年九月末日から昭和三六年三月末までのもので、本件犯則嫌疑事実の年度と余りにもかけはなれており、また、本件搓押えの翌日に複写物が作成されずに還付されており、関連性のなかったことは明らかである。

(一一一)  日計表((一)520)について

右文書は、当日の財産状況及び収益状況を総勘定元帳からそのまま転記したものであって、記載される事項は各勘定科目の当日の残高及びその残高と前日の残高との前日比較係数だけであり、個々の顧客に関する記載は全くない。また、その記載内容を確認する必要があったとしても総勘定元帳をみればわかるものであって、日計表綴を差し押さえる必要性はない。

本件差押えにかかる日計表綴は、本件差押以前の会計年度にかかわるものであり、大量の物件を三名の犯則嫌疑者に一様に関連あるものとして一括差し押さえ、本件差押えの翌日に複写物を作成することなく一括還付していることに照らせば、関連性のなかったことは明らかである。

(一一二)  帰国者持帰金送金明細書綴((二)46)について

朝鮮民主主義人民共和国に帰国する者については、その便宜を図るための持帰金送金制度があったが、右文書はその手続のため控訴人本店営業部に設けられた帰国者の口座から北陸銀行新潟支店又は富士銀行新潟支店の在日本朝鮮人総連合会新潟出張所への送金の明細を示すにすぎず、日本円の外国への持ち出しとは何らかかわりがなく、その内容を把握しておけば犯則嫌疑者に帰属する疑いのある預金が帰国者のものであるとの弁解を排斥することができるというようなものではない。また、現にそのような弁解がされているわけではないのに、将来そのような弁解がされた場合にこれを排斥できる可能性があるからということで関連性があるとすることは、関連性の枠を広げるもので許されない。

(一一三)  参考回議書((二)10)・連絡簿((一)159、(二)262)について

右文書のうち参考回議書は、ある取引先の作成時点における取引内容、すわなち、預金取引、貸付取引、出資金等の明細を記載し、例えば、取引先から貸付の申込があった場合に当該取引先の融資の承認を本部に決裁申請する前に店舗において予備的に検討するため、あるいは、取引先の状況に事業悪化等の異変が生じた場合にその対策をたてるための検討資料として、または、新たな預金獲得のため、預金、貸付の取引状況を把握するために作成、利用される参考的な回議書である。また、連絡簿は、顧客が来店して積金の入金をした場合に、当該積金の集金を担当している渉外係にその入金の事実を連絡するために作成されるものであり、単に渉外係の集金業務と窓口の入金業務との連絡を確認するための書類である。以上のように本件差押えにかかる参考回議書・連絡簿は、各係の担当者において入手した情報を他の部課へ連絡した書類ではないから、特定の預金者に帰属する預金の名寄せ、預金の払戻金の使途、入金状況等が記載されているようなものではなく、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金、簿外資産の発見の手掛かりにすることができるということはない。

(一一四)  官庁関係書類((一)558)について

右文書は営業部副部長の机中に存在したものであり、毎年四回、四半期ごとに作成される業務報告書と推定されるものであり、監督官庁の業務監査のために作成した資料というものではない。したがって、これに大口の貸付先、金額、担保、特に預金、大口の預金者、名義、金額、役員に対する貸付け、預金取引の状況等の資料が含まれているということはなく、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができるということはない。

(一一五)  組合員名簿((二)197)について

組合員名簿と預金の口座名義を示す帳簿を照合して組合員名簿に登載されていない口座名義があれば仮名預金と認められるから、組合員名簿は仮名預金を発見する手掛かりとなるとして、その差押えを許容することは、関連性の枠を際限なく拡大した暴論である。すなわち、右仮名預金が架空名義預金を指すものとしても、組合員名簿によって架空名義預金を発見する作業は、架空名義でない預金を消去してゆく作業であるが、残ったものが必ずしも関連性を有するものではなく、消去法による搜査のために使用する道具にすぎないものについて関連性ありとすることは許されない。

(一一六)  出資金名簿((一)113)・組合出資移動一覧評((一)540)・出資金譲渡分((一)677)について

右文書中出資金名簿は、組合員名簿と同様のもので、組合員番号、住所、氏名が記載されているにすぎない索引簿であり、取引を開始するにあたって取引先が組合員であるかどうかを調べるだけのものであるから、出資口数、金額などの記載はなく、また、架空名義で出資した場合にも、真の出資者に連絡する必要があれば貸付金元帳や預金元帳等を見ればよく、出資金名簿に真の出資者や連絡先をメモする必要性もそのような事実もない。

組合出資移動一覧表は、組合員番号の採番のため、特に欠番をなくすために使用する一覧表であり、出資者の名義の記載はないから、出資金の移動があった場合に誰から誰に譲ったかということはわからず、また、犯則嫌疑者に係る出資金の移動状況が記載されていたということもない。

出資金譲渡分は、出資持分譲渡の場合の組合員から控訴人に対する名義変更承諾願であるが、犯則嫌疑者に係る出資持分譲渡の状況が記載されていたということはない。

(一一七)  担保品預り通帳((二)195)について

右文書は、貸付金の担保として提供を受けた定期預金証書の授受を明確にするために控訴人が貸付先に交付する通帳であり、本件差押えにかかる担保品預り通帳は、渉外係の机中から差し押さえられているから、これから顧客に届けられるものであって、弁済により貸付係が返却を受けて保管していたものではなく、また、返却された担保品預り通帳においても、担保品及び担保品預り通帳の返却日は記載されず、取扱担当者も当該職員在職中の同一期間中は同一であるから、これを調査することによって借受人名義が仮名であるか否かを判断できるということはない。

(一一八)  定期預金預り証((二)196)について

右文書は、渉外係が担当地区の顧客から定期預金等の満期継続あるいは解約支払いの要請を受けた際にその預金証書の授受を明確にするために作成交付する預り証であり、その手続が終了したときには回収されるものである。本件差押えにかかる定期預金預り証によって、これを作成交付した担当渉外係を追及することにより真実の預金者が判明し、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができたということはない。

(一一九)  約束手形控((二)66)について

右文書は、当座勘定取引を有する預金者に約束手形帳(又は小切手帳)を交付するときに、その授受を明確にするために交付手形の番号、交付年月日、交付先を記載したものであって、手形貸付を受ける者が金融機関備付けの手形用紙に手形要件を記入して提出したものの耳の部分ではない。また、手形貸付の場合の手形用紙の耳の部分については、手形振出人の控としてその手許にあり、金融機関の側に保管されるものではなく、金融機関としては手形そのものを徴求することで事は足りるから、当該金融機関が手形の耳の部分に何らかのメモをする必要性もなければ、メモをする合理的理由もなく、これにより犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができるということはない。

(一二〇)  印影((二)336)について

控訴人においては、新たに預金口座を開設した場合には預金元帳に届出印を押印してもらうのが本来の手続であるが、訪問により預金口座の開設を得た場合は元帳を顧客のもとに持ち出して押印してもらうわけにはいかないので、当該元帳のかわりに印鑑の押印を受ける用紙に当該印鑑を押印させ、預金元帳を作成する際にそれを切り取り貼付することが行われており、その用紙に押印された印影が顕出された用紙が右文書であって担当者が顧客の印影を備忘のためメモ用紙に押印したものではないから、その使用目的を調査したり、犯則嫌疑者の使用印と照合することによって、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができるということはない。

(一二一)  名刺箱・名刺((一)563、682)について

右名刺箱・名刺に、犯則嫌疑者に関係するものがあったということはなく、犯則嫌疑者の名刺に来店日、用件等がメモされていて、これと当日の伝票とを対照して預金名義、金額等を明らかにすることができたということもない。

(一二二)  預金関係往復文書((二)177)について

右文書により、預金者に発送した文書の回答書の存在が判明すれば、同預金は実名預金と推測され、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金か否かを判断する資料にすることができるとして、本件差押えにかかる預金関係往復文書の関連性を肯定することは、消去法による資料収集のための差押えを認めることである。しかし、消去法が仮名預金発見の方法として有効たりうるためには、控訴人のすべての帳簿、書類が手中にあることを前提にしなければならず、すべての物件の差押えを認めることになるという点で令状主義に反する。

(一二三)  キャッシュボックス等((一)133、134)・五百円札一枚((二)9)について

右キャッシュボックス等とこれに収納されていた仮証、雑書類、本件差押えにかかる五百円札一枚とこれと同封されていた約束手形一四枚((二)9)とは、それぞれ差押えの際に分離することが可能であったものであり、仮に右仮証、雑書類や約束手形が関連性を有するものであるとしても、これと分離することが可能な関連性を有しない物を差し押さえることは許されないものであり、かつ、右仮証、雑書類及び約束手形が関連性を有しないことは、前述したとおりである。

(一二四)  その他について

機械化資料((一)142)、銀行関係印影表((一)228)、見本帳((一)229)、新高産業株式会社・q・r関係書類((一)628、640、680)、収納取扱店事務取扱の手引((二)37)、信用組合概況一覧表((二)77)は、総代理事住所録((二)173)、鍵((二)258)は、一見して関連性を有しないことが明らかであり、また、本支店勘定元帳((一)567)、手形貸付金記入帳((一)569)、仮受金記入帳((一)570)、物品出納帳((一)571)、有価証券担保品台帳((一)572)、預金利子諸税記入帳((一)573)、不動産担保品台帳((一)574)は、未使用帳簿であるから関連性を有しないことが明らかであって、いずれも本件差押えの翌日に一枚の複写物の作成されないまま還付されている。

二〇  同四九枚目表四行目の「対して」の次に「以下」(一)に述べるように」を、同七行目の「破壊し、」の次に「以下(二)に述べるように」を加え、同一〇行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(一)職員に対する暴行等の状況について」

(1)  本店関係

本件強制調査に際し、本店へ来店した査察官は七八名であり、警備と称して本店へ導入された警察官は五九名であって、官側の人員合計一三七名が約一〇〇坪の営業店内にいたのであるが、他方、当日執務していた控訴人の職員は一九名、内男子七名、女子一二名であった。執行着手の時点においても職員は七八名の査察官にとり囲まれ、身動きもできずに抗議の声をあげることしかできなかった。このような状況の中で、職員のHは押し倒され手を後ろにねじ上げられ、bは突き飛ばされ机の角に腰を打ちつけて腰部打撲傷、左足捻挫の傷害を負い、その他ほとんどの職員が突き飛ばされ、足蹴にされ、背広の袖が破れ、ネクタイがちぎれ、ワイシャツのボタンがとれるなどしたほか、「馬鹿野郎」、「国に帰れ」などの暴言を受けた。職員らの負傷は、調査妨害の制止、排除の過程で偶発的に生じたものと認められるようなものではなく、査察官、警察官が本件強制調査の際、職員に対し、暴行を加え、暴言をあびせていることは明らかである。また、査察官が職員の背中に白墨で印を付けるという行為は、それ自体、いやがらせ、挑発行為としかいいようがなく、人権を無視した行為であり、違法である。

(2)  上野支店関係

上野支店の強制調査においては、控訴人側は、当初男子職員一一人、女子職員一一人計二二人であり、その後加わった職員や朝鮮人同胞等を含めても三〇数名であるのに対し、査察官側は、全員男性の六七名に加えて、上野警察署の警察官が、二回にわたりそれぞれ約三〇人と約二〇人が入店している。このような圧倒的に強力な人数と態勢によって職員らの抗議や抵抗は制圧されたが、この過程で、査察官、警察官らは、単なる偶発的な暴行傷害でなく、正当防衛行為でもない、乱暴な行為を行ったのである。すなわち、控訴人職員は、査察官、警察官により、突き飛ばされ、蹴られ、ネクタイで首を絞められ、髪を引っ張られ、肘で突かれ、羽交い締めにされて投げ飛ばされるなどの暴行を受け負傷したほか、「朝鮮人」、「国へ帰れ」などの暴言を受けたものであり、これら暴行等の状況は、仮に職員らの抗議、妨害が激しかったとしても、それを排除、制止するに必要な限度をはるかに超えるものであった。

(二) 現金の紛失について

強制調査当日、本店預金係主任bは現金一七万四八〇〇円を茶封筒に入れて同人の机の右側の引出しの中に入れておいた。この机の搜索にあった村井勲査察官と伊藤査察官は、搜索開始の合図の直後に、bの机の右側の引出しの中を搜索し、そののち、引出しの中の物(私物まで)及び机の上にあった預金元帳、預金通帳等をダンボール箱に詰め込んだ。bは、査察が終ったのち、その当日中に、自分の机の引出しの中の茶封筒入りの現金が紛失していることに気がつき、すぐ上司のH預金係長に報告した。右の経過に照らすと、右現金は、机の搜索の際、前記村井及び伊藤両査察官らによって持ち去られたものと断定せざるをえない。仮に、査察官らが意識的に現金入りの茶封筒を持ち出さなかったとしても、多数の選別前の押収物の中に混在していたともいえる。」

二一  同五二枚目裏六行目の「ならない。」の次に「国犯法二条に基づく差押えは、犯則事件の証憑となる物件等の占有を一時的に移転することを目的とするものであり、永久的移転を目的とするものでは決してない。ゼロックスによってその完全な複写物を所有することは、差押物件そのものを原形において盗むことであり、差押物件の永久的保有、つまり物件の最終的移転と同じ結果を生むのであって、単純な占有の一時的移転をはるかに超えるものといわなければならない。」を、同一一行目の末尾に続けて「また、本件複写物は、あくまでも犯則事実立証のために資料として作成された証拠物であるから、当然、国犯法一八条一項により検察官に送致されるべきであったのであり、そうでなければ、刑訴法一二三条等の趣旨により直ちにこれを被差押者に還付すべきものである。」をそれぞれ加える。

二二  同八一枚目裏八行目の「出入禁止する」を「出入りを禁止する」と、同八二枚目裏九行目及び同八三枚目裏九行目の各「平隠」を「平穏」とそれぞれ改める。

二三  同八六枚目表七行目の「所で」の次に「これを」を加える。

二四  同一一九枚目表四行目の「両統括官が」を「両統括官から」と、同一二〇枚目裏九行目の「応待」を「応対」とそれぞれ改める。

二五  同一三一枚目裏四行目の「伝票(払戻請求書、入金票、収納伝票)」を「伝票・払戻請求書・入金票」と改める。

二六  同一三三枚目表一行目の「印鑑票(印鑑簿)」を「印鑑簿」と、同二行目、同五行目及び同六行目の各「印鑑票」をいずれも「印鑑簿」とそれぞれ改め、同一〇行目の「(当座新規書類)」を削除し、同裏九行目の「手形帳小切手帳受領書(又は受領簿、受払簿)」を「手形帳小切手帳受取証・手形帳小切手帳受払簿」と、同一〇行目の「手形帳小切手帳受領書」を「手形帳小切手帳受取証」とそれぞれ改める。

二七  同一三四枚目表四行目の「手形帳、小切手帳受領書」を「手形帳小切手帳受取証」と、同裏二行目の「新規受付簿(新規控簿)」を「新規控簿・新規等預金記録表」と、同三行目の「新規受付簿」を「新規控簿・新規等預金記録表」とそれぞれ改める。

二八  同一三五枚目表一〇行目の「預金証書・通帳受領簿(預金証書発行控)」を「預金証書受領簿・証書発行控」と、同一一行目の「預金証書、通帳受領簿」を「預金証書受領薄・証書発行控」とそれぞれ改め、同裏一一行目末尾の次に「なお、仮に、預金者名簿が、⑦新規番号簿、⑧預金証書受領簿、⑩索引簿、⑪預金者住所録に分類されるのが相当であるとしても、そのように分類された帳簿としての関連性が存在するから、関連性を有することは明らかである。」を加える。

二九  同一三六枚目表一行目の「(索引帳)」を削除し、同八行目末尾の次に「なお、仮に、索簿が、⑦新規番号簿に分類されるのが相当であるとしても、⑦新規番号簿としての関連性が認められ、また、普通預金索引簿((一)126)が、預金者名を五十音順に配列した帳簿ではないとしても、口座番号ごとに預金者名を記載し、解約年月日等が付記されている名簿であることには変わりがなく、その名簿によって、預金者名簿等と同様に、新たな仮名預金を発見することができるのである。」を、同一一行目の「氏名」の次に、「、電話番号等」を、同裏五行目末尾の次に「なお、仮に、預金者住所録の中に⑩索引簿として利用されていたものがあるとしても、⑩索引簿としての関連性が認められるのである。」をそれぞれ加え、同八行目の「すべて」を削除する。

三〇  同一三七枚目表八行目の「事故届綴は、」を「事故届綴には、通常は、」と、同九行目から同一〇行目にかけての「をつづったもので」を「も綴られており」とそれぞれ改め、同裏一行目末尾の次に「なお、仮に、本件差押えにかかる事故届綴は、手形交換所や他金融機関等外部からの通知書類であり、預金者との間に異例の事故が発生した場合の関係書類が綴られてはいないとしても、当該文書の中には手形の振出人、名宛人の記載があるので、その中に犯則嫌疑者又は関係者が含まれている可能性があり、嫌疑者ものがあれば、取引先、取引銀行が判明するのであるから、関連性を有する可能性があることに変わりはない。」を加える。

三一  同一三八枚目表一行目の「非課税申告書」を「非課税申告書控」と、同六行目の「解約届(解約理由書、解約申込書)・解約回議書」を「解約届・解約申込書・解約理由書・解約回議書・解約書類」とそれぞれ改め、同裏五行目末尾の次に「なお、仮に、解約書類((二)64)が、⑱解約預金証書に分類されるものであるとしても、⑱解約預金証書としての関連性を有することは明らかである。」を加える。

三二  同一三九枚目表二行目末尾の次に「なお、仮に、控訴人においては、解約預金証書を出金伝票の代替物として使っていなかったとしても、その証書の綴りを出金伝票と同様の方法により検討することにより、帰属確定の手掛かりとすることができる。」を加え、同三行目の「綴」を削除する。

三三  同一四〇枚目裏九行目の「貸付係」を削除する。

三四  同一四一枚目表八行目末尾の次に「なお、仮に、(一)124は既貸付金の利息請求のための計算内容が記載されているものであり、違例事故簿とは異質なものであるとしても、割引料(利息)計算書及び貸付金利息帳と同様の関連性を有することに変わりはない。」を、同裏四行目末尾の次に「なお、仮に、事故簿(当座預金)とは、任意解約若しくは不渡処分による強制解約等の事由により当座預金取引を終了した取引先を記載したものであり、不渡りを防止するため他の預金口座から当座預金へ振り替えるよう預金者に連絡した経過等は全く記載されていないとしても、当座預金取引の開設の際に申請者に事故歴があるかどうかを点検するためには、真実の預金者を把握しておく必要があり、そのため、他人名義で当座預金取引が行われている場合には、真実の預金者をメモする可能性があるので、メモ等の存在を調査することにより、仮名預金を発見する手掛かりを得ることができるから、関連性を有することには変わりがない。」を加え。同裏五行目の「預金日報」を「預金係日報」と改め、同六行目の「預金整理簿は、」の次に「各種預金について各」を加え、同七行目及び同一一行目の各「預金日報」をいずれも「預金係日報」と改める。

三五  同一四二枚目表四行目末尾の次に「なお、仮に、預金記録表が残高集計表や日報綴であり、預金整理簿が精査表であるとしても、預金残高集計表や普通預金精査表と同様の関連性を有することに変わりはない。」を、同裏三行目末尾の次に「なお、仮に、週間掛金日報が、日掛積金の集金担当者が集金状況を毎日の集金に基づき伝票の一部として作成されるものであって、月掛貯金の集金担当者が集金状況を一週間ごとにまとめた報告書ではないとしても、集金担当者がその集金状況を記載した書類であることに変わりはないから、架空名義の預金者が担当地域外の架空の住所を届けている場合には、それを手掛かりとして仮名預金を発見することができるのであって、関連性を有することに変わりはない。また、仮に、定期積金日計表が、総勘定元帳と照合して残高の確認をするものであって、入金、出金、残高の各数字のみが記載され、預金者の氏名が記載されていないとしても、それは普通預金精査表と同種類の種類と考えられるので、同精査表と同様の関連性を認めることができるのであり、関連性を有することに変わりはない。」をそれぞれ加える。

三六  同一四三枚目表一行目の「預金残高集計表(又は残高表)」を「残高集計表・残高報告書等」と改め、同七行目末尾の次に「なお、仮に、残高集計表・残高報告書等が、金融機関が月末等の特定の時期に預金者ごとの預金残高を集計し、贈答等の資料とするために作成する内部資料ではなく、統計資料、精査表、週間掛金日報綴、報告書綴、利息計算書控であるとしても、統計資料は預金(積金)書き抜き綴帳及び仮決算統計書類、精査表は普通預金精査表、週間掛金日報綴は、週間掛金日報、報告書綴はむつみ定期預金書類、利息計算書控は貸付金利息帳と同様の関連性を認めることができるのであって、いずれにせよ関連性を有することに変わりはない。」を、同八行目の「綴帳」の次に「・同元帳」を、同裏二行目末尾の次に「なお、仮に、預金(積金)書抜き綴帳が、主として大口の預金(積金)について積類別に設定、解約等日々の動きを書き抜いた書類ではなく、預金の各科目ごとに毎月末の残高を記載し、その残高が総勘定元帳と一致するか照合するために作成される残高集計表の綴りであるとしても、犯則嫌疑者名義の預金や関係者名義の預金の取引状況を把握するのに役立つもので、いずれにせよ関連性が認められることに変わりはない。」をそれぞれ加える。

三七  同一四五枚目表一行目末尾の次に「なお、仮に、むつみ定期預金書類・据置貯金綴が、むつみ定期預金の取扱状況及び残高の報告書の綴り及び据置貯金の残高集計表の綴りであり、大口の契約を獲得したときにその個別の顧客名を記載して報告するというようなことは行われていないとしても、残高集計表・残高報告書等及び預金(積金)書抜き綴帳・同元帳と同様の関連性が認められるのであり、関連性を有することに変わりはない。」を、同八行目末尾の次に「なお、仮に、当座入金支払伝票明細書が、控訴人が国税局からの提出依頼に基づいて提出した回答書の控えであるとしても、本件差押当時の状況に照らすと、既に回答済みのものであるか否かを査察官が差押現場において判断することは困難であった。」を、同裏四行目末尾の次に「なお、仮に、債権譲渡関係綴は、預金債権譲渡による名義変更願いの綴りであるとしても、預金者が自己の預金を第三者に譲渡することに関して控訴人に提出した書類であることに変わりはなく、架空名義預金の場合には、右預金が自己のものであるとする真実の預金者の意思を確認したうえ、その旨メモされている可能性があり、仮名預金発見の手掛かりとなる。」をそれぞれ加え、同裏五行目の「借入金(又は手形割引)申込書」を「借入金申込書・手形割引申込書」と改める。

三八  同一四六枚目表四行目の「貸付稟議書(貸付回議書)・貸付関係書類」を「貸付回議書・貸付稟議書・貸付関係書類」と、同裏六行目の「綴」を「(控)」とそれぞれ改め、同裏五行目末尾の次に「各ファイルの背表紙に記載された顧客名等が犯則嫌疑者以外のものであったとしても、その中の借入金申込書の筆跡、印影等を精査することにより、仮名の貸付を発見する可能性があり、また、保証人、手形の振出人、名宛人等の記載もあるので、犯則嫌疑者及びその関係者との関連を調査することにより、犯則嫌疑者の仮名取引を知る可能性もある。なお、仮に、(一)632の文書が、新宿支店の経費の支払い等に関する稟議書等であり、貸付関係の回議書等ではないとしても、控訴人から大口預金者等得意先への贈答品に関する稟議書などの書類が含まれている可能性があり、それにより仮名預金を発見する手掛かりを得られることもある。」を加える。

三九  同一四七枚目表五行目の「債務弁済契約公正証書(根抵当権設定契約証書)」を「債務弁済契約公正証書・根抵当権設定契約証書等」と改め、同裏五行目末尾の次に「各袋に記載された顧客名等が犯則嫌疑者以外のものであったとしても関連性があることは、貸付回議書・貸付稟議書・貸付関係書類について述べたと同様である。」を加え、同六行目の「公正証書作成委任状綴・委任状等」を「委任状等・公正証書作成委任状綴」と改める。

四〇  同一四八枚目裏三行目の「手形貸付金元帳(割引手形元帳)」を「割引手形元帳・手形(証書)貸付金元帳」と同四行目の「手形貸付け」を「手形(証書)貸付け」とそれぞれ改める。

四一  同一四九枚目表四行目の「手形貸付け」を「手形(証書)貸付け」と改め、同八行目末尾の次に「なお、仮に、(二)204の実態が割引手形元帳であり、手形(証書)貸付金元帳ではないとしても、各記載事項、様式はほとんど同一であり、いずれであっても関連性は認められるのであるから、それによって無選別な差押えということはできない。」を加え、同裏三行目の「は合計額で徴収する」を「の最終的な交付ないし振替金額の計算は架空名義による手形割引と実名義によるそれとを一括して処理することが多い」と改め、同五行目末尾の次に「なお、仮に、割引料(利息)計算書には控えが存在せず、計算書そのものであるとしても、それにより関連性の有無が左右されることはない。」を加える。

四二  同一五〇枚目表五行目の「係る」の次に「可能性のある」を加える。

四三  同一五一枚目表二行目の「約束手形」の前に「金額未記入の」を加え、同三行目の「決済の」から同四行目の「その」までを「顧客の振り出した」と、同九行目及び同一〇行目の各「手形(証書)貸付受付簿」をいずれも「手形貸付受付簿・証書貸付受付簿」とそれぞれ改め、同裏一一行目の「同一であれば、」の次に「他の資料と併せ検討することにより、」を加える。

四四  同一五二枚目表一行目末尾の次に「なお、仮に、手形貸付受付簿・証書貸付受付簿には、貸付の実行日や実行金額は記載されないとしても、貸付実行表や手形貸付金元帳などによりこれを知ることができ、それらを比較検討することによって、申込額と実行額との差額は判明する。」を加え、同二行目の「・発送簿」及び同三行目の「及び発送簿」をそれぞれ削除し、同五行目の「であっても」から同六行目の「記録されるので、」までを「名義上の借入先は複数であっても、実質的な借入先は一件であるので、貸付関係の書類は通常一括で審査されることから、その発送も同一日になされる場合が多く、したがって、回議発送簿において同一日に発送された貸付関係書類の債務者を検討することによって」と改め、同七行目末尾の次に「なお、仮に、回議発送簿には架空名義の貸付けが記載される余地がないとしても、消去法の有力な資料となるから、いずれにしても関連性が認められることに変わりはない。」を加え、同八行目及び同九行目の各「手形(証書)貸付記入帳」をいずれも「手形貸付金(証書貸付金)記入帳」と改め、同裏四行目末尾の次に「なお、仮に(一)6684、5が貸付金期日帳に分類されるものであるとしても、手形貸付金期日帳と同様の関連性を有するから、関連性を有することに変わりはない。」を加える。

四五  同一五三枚目表五行目末尾の次に「なお、仮に、(一)550、551、が、代金取立手形記入帳であり、期日帳ではないとしても、不渡事故等の連絡に備えて実際の連絡先が記載されていることがあることは、代金取立手形記入帳であっても同様であるから、関連性を有することに変わりはない。」を加え、同六行目の「代金取立手形記入帳」を「手形記入帳・代金取立手形記入帳」と改め、同裏七行目末尾の次に「なお、単に手形記入帳と記載されているものも、代金取立手形記入帳又は交換持出手形記入帳・交換手形記入帳のいずれかである。」を加え、同八行目の「交換持出手形記入帳・手形記入帳」を「交換持出手形記入帳・交換手形記入帳」と、同九行目「交換持出手形記入帳」を「交換持出手形記入帳・交換手形記入帳」とそれぞれ改める。

四六  同一五四枚目表八行目の「なお」から同一〇行目の「いずれかである。」までを削除する。

四七  同一五五枚目表一行目の「交換持出手形」から同二行目の「内容」までを「手形、小切手の不渡り事績を記載した帳簿であることは交換持出手形不渡記入帳、交換受入手形不渡記入帳と同様であり、その記載事項もほぼ同様」と改め、同四行目の「記入帳は、」の次に「受入手形中、預金不足のものを記入し整理する帳簿で、」を加え、同五行目の「記入する帳簿で」を削除し、同六行目の「記載される」の次に「のが通常である」を、同裏一行目の「口座」の次に「(いったん他の口座から払戻しを受けた現金を入金する場合にはその他の口座)」を、同二行目末尾の次に「なお、仮に控訴人においては、預金不足の場合、取引先に連絡して入金を求め、入金がなかった場合にのみ交換受入手形不渡記入帳に記入する取り扱いをしていたとしても、不渡りとなった受人手形につき、その手形の振出人や受取人、交換持出銀行名などが記載されているのであるから、それらの記載内容を精査することにより、犯則嫌疑者の簿外の取引先や取引銀行を解明することができるとともに、これらを手掛かりとして新たな仮名預金を発見できる場合もあるのであって、関連性を有することに変わりはない。」をそれぞれ加える。

四八  同一五六枚目表六行目末尾の次に「なお、仮に、期日経過貸金回収日報が、期日経過となった貸付金のうち現実に回収した元金、利息の内容を記載しているにすぎないものであり、架空名義や他人名義の貸付金について実際の請求先、集金先がわかるようにはなっていなかったとしても、記載の中に犯則嫌疑者に係る貸付金の回収が含まれている場合には、その返済資金となった預金を調査することによって、仮名預金を発見する手掛かりとなるものであり、いずれにしても関連性を有することに変わりはない。」を加え、同一一行目の「、満期日」を削除し、同裏一行目の「月報を」「相殺性貸金を相殺処理する等のために作成し」と改める。

四九  同一五七枚目表二行目末尾の次に「なお、仮に、相殺性貸金とは、預金を担保とした貸金一般のことではなく、預金を担保とした貸金につき預金と相殺処理することを顧客との間で合意したが未だ相殺処理がされていないもののみをいうとしても、相殺処理を合意するについての折衝過程や事後における合意内容の確認等のため、何らかの方法で顧客に連絡することは十分考えられるところであり、架空名義の貸付先であっても、実際の貸付先名又は連絡先が記載されている可能性がある。また、仮に、貸付日、返済日、使用している印影、担当者名等の記載はないとしても、同時になされた数口の貸付けについては連続して記載されている場合が多いので、犯則嫌疑者名義の貸付けを抽出し、その前後の貸付けにつき、借入金申込書など他の関連資料を調査することによって、貸付日、返済日、使用している印影、担当者名等を検討し、架空名義の貸付金や仮名預金を発見することができる。」を加え、同四行目の「回収に」から同五行目の「といい、」までを削除し、同行目の「分類貸出し」を「回収に不安がある」と改める。

五〇  同一五八枚目表二行目末尾の次に「なお、仮に貸付(貸出金)残高集計表に貸金の担保となる預金の内容を記載する欄はなく、家族名義、架空名義等が記載されているということはありえないとしても、相殺性貸出金の欄に記載された相殺性貸出金を端緒に、右貸出金の見合いになっている預金を調査することによって、仮名預金を発見する手掛かりとすることができるから、関連性を有することに変わりはない。」を、同八行目末尾の次に「なお、仮に、大口債権調が、預金額を超える与信貸付けを記載するもので架空名義の貸付金が記載されることはないとしても、犯則嫌疑者名義や関係者名義の貸付金の取引状況を把握するのに役立つし、また、分類貸出金明細書と同様、消去法における有力な資料とすることはできるのであるから、いずれにしても関連性を有することに変わりはない。」を加え、同九行目の「現金収支残高(在高)表」を「現金収支残高表・現金収支在高表」と、同一〇行目の「現金収支残高表」を「現金収支残高表・現金収支在高表」とそれぞれ改め、同裏八行目末尾の次に「なお、仮に、現金収支残高表・現金収支在高表が、伝票上の入出金をすべて記載するものであるとしても、同一金額である入出金を抽出したうえ、当該取引日の伝票や預金申込書等の筆跡などを精査することによって、実質は預金の預け替えである現金の入出金を調査できることになるから、いずれにしても関連性を有することに変わりはない。」を加え、同九行目及び同一〇行目の各「不渡撤回(回収)依頼書」をいずれも「不渡撤回依頼書・不渡回収依頼書」と改める。

五一  同一五九枚目表六行目の「の記載」から同七行目の「多い」までを「をメモ書きしていることがある」と改め、同八行目末尾の次に「なお、仮に、不渡撤回依頼書・不渡回収依頼書が、債務者である手形振出人から提出されたものであるとしても、これを受領した金融機関は、債権者である手形所持人に対してその旨を連絡する必要があり、債権者が仮名預金口座に入金を予定していた場合には、担当係員において、その連絡先である債権者の実名や電話番号等をメモ書きしている可能性があるから、関連性があることに変わりはない。」を加える。

五二  同一六〇枚目表一〇行目末尾の次に「なお、仮に、不渡手形授受簿が、不渡手形、小切手を依頼者に返還するときに受領印を押捺してもらう帳簿にすぎず、その手形の取立依頼人、振出日、支払期日、金額等が記載されることはないとしても、不渡小切手手形受領控帳と同様の関連性が認められるから、関連性を有することに変わりはない。」を加える。

五三  同一六一枚目裏三行目末尾の次に「なお、仮に、代手振込帳が、控訴人が手形、小切手の取立てを依頼した銀行からの電話連絡の内容を記載したものであって、控訴人が取立依頼人に入金のあったことを連絡した事績の記録ではないとしても、控訴人が銀行から受けた連絡の内容は、取立依頼人に対しても連絡すべき性質のものを含んでいるから、取立依頼人に対し更に連絡する必要があり、取立依頼人への連絡が適切に行われたことを明確にするために、実際に連絡した者の名前や電話番号等をメモ書きしている可能性があるから、関連性を有することに変わりはない。」を加える。

五四  同一六三枚目表一一行目末尾の次に「なお、仮に、現金受領簿が、控訴人の預金係あるいは貸付係と渉外係との間での現金の授受の際に作成されるものであって、顧客と控訴人職員との間での現金の授受の際に作成されるものではないとしても、授受された現金の内容を特定するために、当該現金が支払われるべき顧客の氏名や預金科目等を記載するのが通常であるから、それらの記載をもとに仮名預金を発見する手掛かりを得ることができるし、また、仮名で記載されている場合についても、その現金の真の交付先がメモされていることがあるから、関連性を有することに変わりはない。」を加える。

五五  同一六四枚目表一一行目の「が入っている」を「であることが判明した」と改め、同行目の「場合は、」の次に「合理的理由がない限り、」を加える。

五六  同一六五枚目表三行目末尾の次に「なお、仮に、預り書控が、預金係が顧客に手渡さずに保管していた預金証書を記載したものであって、得意先係が預金者から預金証書等を預かった場合に発行した預り書の控えではないとしても、実名と仮名の預金証書が同時に作成保管される場合は、それらの預金証書が連続して記載されるのが通常であるし、真実の預金者に間違いなく預金証書を交付するために実名をメモ書きしている可能性もあるので、仮名預金を発見する手掛かりとなることに変わりはなく、関連性を有することに変わりはない。」を加え、同五行目の「集金担当者が、」を削除し、同裏七行目末尾の次に「なお、仮に、個人別契約高及び解約高報告書が、渉外係ごとにその手当支給の資料として作成されたものであって、預金者ごとに作成されるものではないとしても、一口ごとの預金の明細が記載されていることに変わりはないうえ、渉外係の手当支給の資料として作成されたものとすれば、その渉外係が獲得した定期性預金のすべてがもれなく記載されているものと推認されるので、犯則嫌疑者担当の渉外係などの特定の渉外係について、同人が獲得した定期性預金の設定及び解約の状況をつぶさに把握でき、それによって仮名預金発見の手掛かりを得ることができるのであるから、関連性を有することに変わりはない。」を、同一一行目の「その運動方針」の前に「一般に、」をそれぞれ加える。

五七  同一六六枚目表六行目の「いる」の次に「のが一般である」を、同裏五行目末尾の次に「なお、仮に、預金増強運動関係書類・預金増強集団工作報告書には、預金者に対する贈答品の配布基準や預金者ごとの預金残高、資金繰りの状況、預金獲得目標額、贈答品の内容等を記載した書類は、綴られていないとしても、各個人別の運動期間中の成果報告書が編綴されており、これには新規獲得預金の預金者、金額が記載されていると考えられるので、右預金が実名で預金されているか否かを調査することにより、犯則嫌疑者の実名預金や仮名預金を発見する手掛かりを得ることができるから、関連性を有することに変わりはない。」を、同六行目及び同七行目の各「報告書」の次にいずれも「類」を、同一一行目末尾の次に、「なお、仮に、渉外活動関係書類が、渉外係の毎日の集金及び勧誘の成果を記載したものであり、集金業務に関しては預金者の氏名や訪問した先が記載されることはないとしても、新規契約を獲得した場合は、その氏名が記載されているのであるから、それを手掛かりとして、その日の伝票等と照合することにより、仮名預金を発見することができるし、また、その氏名が仮名の場合には、真実の預金者がメモされている可能性もあるのであって、関連性をすることに変わりはない。」をそれぞれ加える。

五八  同一六七枚目表五行目の「行うので」を「行うのが通常であって」と改め、同七行目末尾の次に「なお、仮に、渉外係事務引継書類は、旧渉外係が担当した積金の口座番号、氏名、掛込額等が記載された集金照査表であり、得意先の仮名預金の状況や事業の内容等は記載されていないとしても、新渉外係に引き継ぐために、旧渉外係が担当した積金の明細が記載されているから、犯則嫌疑者の実名預金があれば、それを手掛かりに同一集金日の預金等を調査することによって、仮名預金を発見することができるし、また仮名預金については実名がメモされている可能性があるのであって、関連性を有することに変わりはない。」を、同一〇行目の「するのは、」の次に「一般的には、」を、同裏四行目の「得意先係」の次に、「は、当該預金者の実名、仮名のすべての預金を把握しているのが通常であり、これ」を、同七行目末尾の次に「なお、仮に、控訴人においては、右、の場合には仮払処理がされておらず、預金係で扱う仮払金記入帳は、不渡返還又は入金待ちの場合に使用されるものであるとしても、それらの取引の中に犯則嫌疑者に関係する取引が含まれているか否か、特に入金待ちについては、当該不足額の入金がどのようにしてなされたのかなどを調査することにより、仮名預金発見の手掛かりを得ることができるのであるから、関連性を有することに変わりはない。また、仮に、仮払金記入帳と同じ内容のものが、仮受金記入帳や仮払金元帳として差し押さえられているとしても、そのことによりそれらの物件や仮払金記入帳が関連性を有しないということはできない。」をそれぞれ加え、同八行目の「仮受月末統計」を「仮受金月末統計」と改め、同九行目の「仮受金は、」の次に「一般には、」を加える。

五九  同一六八枚目表四行目の「送金」から同六行目の「仮名預金口座」までを「各場合の仮受の目的などを調査することによって、その仮受に関連する犯則嫌疑者の仮名預金や仮名貸付等」と改め、同八行目の「統計表であり、」の次に「個々の仮受金の発生状況を一覧することができる点において仮受金記入帳と何ら異ならず、」を、同九行目末尾の次に「なお、仮に、当時の控訴人においては、為替業務の取扱いが認められていなかったから、為替送金の取引から仮受金が発生するということはなかったとしても、送金業務等に伴って発生した仮受金のみを対象に関連性が認められるとするものではないから、控訴人が為替業務を行っていたか否かによって、関連性の有無が左右されることはない。」を加え、同裏八行目の「できる。」の次に「また、得意先係が転勤ことに伴い、同人が担当した預金をその転勤先の店舗に移し替えたために本支店間に貸借が生ずる場合もあるので、犯則嫌疑者を担当する得意先係の転勤に伴う預金の移し替えの有無についても調査する必要がある。」を、同九行目末尾の次に「なお、仮に、本支店交換勘定月末状況表が、手形交換所に提出する統計資料であって、本支店勘定元帳とは全く異なる書類であるとしても、本支店交換勘定月末状況表には、一日ごとに当日の支払交換手形の種類別の枚数と合計金額を記載した月中支払交換手形種類別と題する書類が綴られており、これによって交換持出手形記入帳の正確性を調べることができるから、いずれにしても関連性を有することに変わりはない。」をそれぞれ加え、同一〇行目の「本支店移管稟議綴(回議書)・移管預金集計表」を「本支店移管稟議綴・本支店移管回議書等・亀戸支店移管預金集計表」と改める。

六〇  同一六九枚目表四行目の「を記載して内部の決裁を求めた」を「が記載された内部の決裁書類」と改め、同六行目の「移管預金集計表」の前に「亀戸支店」を加える。

六一  同一七〇枚目表七行目末尾の次に「なお、仮に、月報が、預金、貸付金の種類別にその口座数及び残高等の合計を記載した文書であって、預金、貸付金の残高を口座別あるいは預金者ごとに記載した文書ではないとしても、そのような文書にはその前提となる内訳表が添付されているのが通常であるうえ、貸付に関する仮受金には氏名と金額が記載されているから、これが仮名の場合にはその実名がメモされている可能性があり、仮名の貸付金を発見する手掛かりとなるものである。」を加え、同八行目の「(総統計表)」を削除し、同裏二行目末尾の次に「なお、仮に、統計資料の中に得意先係担当者ごとの預金獲得の明細の記載がなかったとしても、信用組合貸出金一覧表や大口債権調などの文書は含まれていたから、それらの文書によって、当該貸付けの担保となっている把握漏れの預金を発見する手掛かりを得ることができるのであって、関連性を有することに変わりはない。」を加え、同六行目の「文書綴は」を「文書綴には」と、同行目から同七行目にかけての「したもの」を「されているが一般的」と改める。

六二  同一七一枚目裏三行目の「預金高」の次に「等」を加え、同四行目の「一定額以上の」を「預金高等により優良取引先とされた」と改め、同行目の「預金者」の次に「等」を加える。

六三  同一七二枚目裏一〇行目の「・メモ等」を削除する。

六四  同一七三枚目表六行目及び同裏五行目から同六行目にかけての各「卓上日誌、手帳等」いずれも「雑記帳・未整理事項・忘備録・日誌・日記・カレンダー・手帳」と改める。

六五  同一七四枚目表三行目の「手控帳は、」の次に「得意先係やその役席などが中元の贈答や預金の切替えなどの顧客に対するサービスを的確に行うために作成した書類であり、」を加え、同行四行目の「した書類」を「しているのが通常」と改め、同七行目及び同八行目の各「雑書類」の次にいずれも「・机中資料」を、同一〇行目の「収めたもので、」の次に「事務机の中から発見されていることからすれれば、控訴人の業務に関係する文書とみるのが自然であり、」を、同裏一行目末尾の次に「本件差押えにかかる雑書類には、ハングル文字で記載され、日本の銀行名と思われる記載があるものがあり、犯則嫌疑者の預金取引を解明し得る可能性があるものとして差し押さえたことに違法はない。」を、同二行目の「通達」の次に「・回覧」をそれぞれ加える。

六六  同一七五枚目表二行目の「右記入帳」から同三行目の「あるため、」を削除し、同五行目の「よって、」の次に「右記入帳の」を同行目の「記帳漏れの」の次に「有無、」をそれぞれ加え、同裏三行目の「綴」を削除し、同五行目の「預金者が多く、」の次に「国民貯蓄組合関係資料には、通常、国民貯蓄組合の加入者名や預金額などが記載された書類が綴られているから、」を加える。

六七  同一七六枚目表二行目の「書類であって、」の次に「これを一覧することによって、控訴人がいかなる書類を作成していたかを知り得るのであり、」を加え、同九行目の「封書」の前に「渉外係宛の」を加え、同行目から同一〇行目にかけての「のが通常であり」を「ことが多く」と改め、同裏一行目の「臨小特優」を削除し、同四行目の「特別融資」から同五行目の「ことによって」までを「通常、個別の融資申込みに関連する文書が綴られているから、それによって特別融資の申請手続をした者に係る融資対象事務所を調査することができ、」と改め、同七行目末尾の次に「また、都特別融資要網綴には、貸付金の明細が編綴され、貸付先や保証人の氏名等が記載されていたから、犯則嫌疑者に対する貸付けがある場合にはその貸付の内容を知り得るばかりか、同人が保証人となっているものがあれば、同人と当該保証先との取引内容を解明する手掛かりをも得ることができる。」を加える。

六八  同一七六枚目裏七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「  L名義・A名義関係書類

L名義A名義関係書類は、L及びA名義の貸付けに関する文書を一まとめにしたもので、三和企業及びAに係る貸付金の内容を調査する資料となりうる。

交換支払手形内訳表

交換支払手形内訳表は、金融機関の顧客が振り出し、支払場所が当該金融機関となっている手形、小切手を手形交換所で決済したときに、右手形、小切手について記載したもので、交換持出手形記入帳・手形記入帳・交換持出手形不渡記入帳・不渡手形控帳と同様の理由により関連性が認められる。なお、仮に、交換支払手形内訳表には個別的な手形の内容や取立依頼人の氏名は記載されず、決済された手形、小切手等の合計枚数、合計金額のみが記載されるとしても、そこに記載された内容と交換受入手形不渡記入帳とを照合、検討することにより、交換受入手形記入帳の正確を確認し、右記入帳記載もれの不渡手形の有無を調査する手掛かりを得、ひいては仮名預金で取り立てようとした不渡手形などを発見する手掛かりを得ることができる。

交換関係書類

交換関係書類は、手形交換所に対する不渡処分撤回請求に関する書類、照会文書、取引停止処分取消承認通知等の不渡手形、小切手の事後処理に関する書類であり、これを調査することによって、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。

手形交換所諸報告書

手形交換所諸報告書は、手形交換所が各加盟金融機関に対して送付する不渡届(不渡処分の報告)、不渡人名簿であり、金融機関の取立依頼人に不渡りの連絡をした際のメモが記載されていることがあり、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりとなり得る。

不渡手形返還添票

不渡手形返還添票は、金融機関が支払場所となった手形、小切手を預金不足等の不渡りにより手形交換所へ返還する際の添付書類で、不渡りの枚数、合計金額が記載されており、他の関係帳簿と照合、検討することにより、不渡手形の振出人、金額、不渡原因等を調査することができ、これにより、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりを得ることができる。

集金控帳

集金控帳は、得意先係の担当者が預金、積金等の集金をしたときに手控えとして記載するものであり、預金者の実名、口座等がメモされていることがあり、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。

入金送金領収書綴

入金送金領収書綴は、送金を依頼された際に発行した領収書の控えであり、送金先に入金口座がない場合に備えてあらかじめ依頼者の電話番号等の連絡先がメモされていることがあり、偽名で送金した場合の実名を把握することにより、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。控訴人自身が為替業務を行えなかったとしても、為替送金の業務を取り扱っている取引銀行に依頼して為替業務を行うことは可能であり、そのような場合にも、控訴人が顧客から右送金のための現金等を受領した際に、入金目的(送金先等)特定した領収書を発行することがあり得るのである。なお、仮に、入金送金領収書綴は、顧客からの送金依頼とは関係がなく、金融機関相互間の入金送金に関する書類であるとしても、手形明細票、当座勘定受入副報告書等が在中しており、犯則嫌疑者及びその関係者との関連の有無を調査することにより、犯則嫌疑者の取引を知る可能性がある。

仮払金元帳

仮払金元帳は、交際費を経費として会計処理するための領収証等の必要書類がそろっていないときに、一時仮払金として処理するための元帳であり、大口預金者に対する贈答の内容を調査することによって、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。

損益勘定内訳表

損益勘定内訳表は、金融機関の損益勘定の内容、例えば大口の貸付金利息、預金利息、未收利息等の具体的に記載し、あるいはこれを記載した内訳表を添付していることが多く、犯則嫌疑者に帰属する大口の実名預金の内容を正確に把握することができる。なお、仮に、大口の貸付金利息、預金利息、未収利息等の具体的記載がないとしても、関連する他の帳簿書類と照合、検討することにより、その記載内容の正確性を確認することができるから、関連性を有することに変わりはない。

総勘定元帳

定期預金元帳、普通預金元帳等の記載内容の正確性を調査するためには、総勘定元帳との照合が不可欠であり、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金の発見に重要な証拠資料となる。

日計表綴

日計表は、毎日の貸付金、出資金、預金、借入金等各科目の動きを記載したもので、総勘定元帳に転記されるものであり、総勘定元帳と同様の理由により関連性が認められる。なお、仮に、日計表が、当日の財産状況及び収益状況を総勘定元帳からそのまま転記したものであって、記載される事項は各勘定科目の当日の残高及びその残高と前日の残高との前日比較係数だけであり、個々の顧客に関する記載がないとしても、総勘定元帳と比較対照することによりその正確性を検討することができるのであるから、関連性を有することに変わりはない。

帰国者持帰金送金明細書綴

帰国者持帰金送金明細書が、北朝鮮へ帰国する際に持帰りを許可された金員の明細であるとしても、その内容を把握しておけば、犯則嫌疑者に帰属する疑いのある預金が帰国者のものであるとの弁解を排斥することができる。なお、仮に、帰国者持帰金送金明細書が、控訴人本店営業部に設けられた帰国者の口座から北陸銀行新潟支店又は富士銀行新潟支店の在日本朝鮮人総連合会新潟出張所への送金の明細を示すにすぎないものとしても、右弁解に係る帰国者のための送金が記載されているかどうか、また、記載されている場合には、その送金額が外国為替及び外国貿易管理法の規制枠に達しているかどうか、同帰国者には犯則嫌疑者に多額の資金を預けるだけの経済的余裕があったかどうか等を調査することにより、右弁解の真否を判断することができる。

参考回議書、連絡簿

参考回議書、連絡簿は、各係の担当者において入手した情報を他の部課へ連絡した書類であって、特定の預金者に帰属する預金の名寄せ、預金の払戻金の使途、入金状況等が記載されていることがあり、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金、簿外資産の発見の手掛かりにすることができる。なお、仮に、参考回議書が、ある取引先の作成時点での取引内容、すなわち、預金取引、貸付取引、出資金等の明細を記載した参考的な回議書であるとしても、顧客の動向について得た各種の情報を業務上の参考として内部に回すために作成された書類であることに変わりはなく、仮名預金や簿外資産をも含めた当該取引先との預金、貸付金の取引状況等が記載されている可能性が高い。また、仮に、連絡簿が、渉外係が担当している積金につき、たまたま顧客が来店して入金をした場合に、当該積金の担当渉外係にその入金の事実を連絡するために作成されるものであって、単に渉外係の集金業務と窓口の入金業務との連絡を確認するための書類であるとしても、各窓口へ来る客の情報を関係の部や係に連絡するための帳簿であることに変わりはなく、その日の伝票と照合することにより、仮名預金発見の手掛かりとすることができる。

官庁関係書類

官庁関係書類は、監督官庁の業務監査のために作成した資料であり、大口の貸付先、金額、担保、特に預金、大口の預金者、名義、金額、役員に対する貸付け、預金取引の状況等の資料が含まれており、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。なお、仮に、官庁関係書類が、毎年四回、四半期ごとに作成される業務報告書であるとしても、監督官庁である東京都に対し提出するために作成された書類で、大口貸出の状況として貸出(組合員)名、出資金額、貸出科目、貸出額、担保預金、純債務額等が貸出先ごとに記載されているから、仮名預金を発見する手掛かりにすることができることに変わりはない。

組合員名簿

組合員名簿に登載されている組合員名義の預金については、一応仮名預金ではないと推測できるので、預金が仮名預金か否かを判断する資料とすることができる。

出資金名簿、組合出資移動一覧表、出資金譲渡分

出資金名簿は、出資者の氏名、住所、出資口数、金額等を記載したものであり、架空名義、個人名義で出資した場合は真実の出資者の氏名、連絡先がメモされていることがある。組合出資移動一覧表は、譲渡した持分の一覧表、出資金譲渡分は、持分譲渡の当事者名、口数等を記載したものであり、いずれも犯則嫌疑者に係る出資金の移動状況を把握する資料にすることができる。なお、仮に、組合出資移動一覧表に出資者名義が記載されていなかったとしても、これに組合員番号や個々の組合員の出資金、口数の移動事由及び現在高などが記載されているから、出資金名簿等によって犯則嫌疑者に係る組合員番号を特定した上、組合出資移動一覧表により同嫌疑者の出資金の移動状況を把握することができるのであるから、関連性を有することに変わりはない。

担保品預り通帳

担保品預り通帳は、貸付金担保の提供を受けたときに発行した通帳が、弁済により返却されたものであり、担保提供者、提供日、返還日、通帳の返却日、取扱担当者、貸付先等が記載されており、これを調査することによって、借受人名義が仮名であるか否かを判断することができる場合がある。なお、仮に、担保品預り通帳が、貸付金の担保として提供を受けた定期預金証書の授受を明確にするために控訴人が貸付先に交付する通帳であり、これから顧客に届けられるものであるとしても、担保品の品名、数量、金額等が記載されているから、担保品台帳と同様の関連性を有することに変わりはない。

定期預金預り証

定期預金預り証は、得意先係の担当者が解約等のために預金者から定期預金証書を預かったときに発行した預り証を手続終了後に返還を受けたものであり、名義、口座等を調査することにより、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。

約束手形控

約束手形控は、手形貸付を受ける者が金融機関備付けの手形用紙に手形要件を記入して提出したものの耳の部分で、真実の貸付先がメモされていることがあり、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。なお、仮に、約束手形控が、当座勘定取引を有する預金者に約束手形帳(又は小切手帳)を交付するときに、その授受を明確にするために交付手形の番号、交付年月日、交付先を記載したものであって、手形の耳の部分ではないとしても、⑤手形帳小切手帳受払簿と同様の関連性を認めることができ、関連性を有することに変わりはない。

印影

印影は、担当者が顧客の印影を備忘のためメモ用紙に押印したものであり、使用目的を調査し、あるいは犯則嫌疑者の使用印と照合することによって、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。なお、仮に、印影が、店頭でなく顧客を訪問して預金を獲得した場合に、元帳のかわりに届出印を押印させたものであるとしても、顧客の印影であることに変わりはないから、これと犯則嫌疑者の使用印と照合することによって、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金を発見する手掛かりにすることができる。

名刺箱・名刺

名刺箱・名刺には、犯則嫌疑者及びその関係人の名刺が含まれている可能性があり、犯則嫌疑者の名刺には、来店日、用件等がメモされていることがあるから、当日の伝票と対照して預金名義、金額等を明らかにすることができる。

預金関係往復文書

預金関係往復文書は、金融機関が預金者と事務連絡をした関係書類で、紛失届、改印届の真否を確認するために預金者に発送した文書の控え及びその回答書であり、回答書が存在すれば実名預金であると推測されるから、犯則嫌疑者に帰属する仮名預金か否かを判断する資料にすることができる。

キャッシュボックス等、五百円札一枚

キャッシュボックス等は、収納されていた仮証、雑書類を差し押さえるために容器自体を差し押さえたものであり、五百円札一枚は、差し押さえるべき約束手形一四枚に同封されていたもので、封筒ごと差し押さえたものである。

その他

機械化資料((一)142)、銀行関係印影表((一)228)、見本帳((一)229)、収納取扱店事務取扱の手引((二)37)、信用組合概況一覧表((二)77)は、職員らの急迫な妨害行為に直面して選別が十分に行われないなどのために紛れ込んだものである。また、鍵((二)258)は、それを使用する机又はロッカーを探しているうち混乱が起き、やむを得ず持ち帰ったものである。さらに、本支店勘定元帳((一)567)、手形貸付金記入帳((一)569)、仮受金記入帳((一)570)、物品出納帳((一)571)、有価証券担保品台帳((一)572)預金利子諸税記入帳((一)573)、不動産担保品台帳((一)574)が未使用帳簿であるとしても、急迫な妨害行為の中で差押えが行われたため、たまたま含まれていたにすぎない。」

六九  同一七六枚目裏八行目から同一七九枚目表八行目までを削る。

七〇  同一七九枚目表末行の「破壊」の次に「、現金持ち去り」を、同裏二行目の「侮辱」の次に「、現金持ち去り」をそれぞれ加える。

第三  証拠<省略>

理由

一当裁判所も、控訴人の被控訴人東京国税局収税官吏に対する訴えは不適法としてこれを却下し、控訴人の被控訴人国に対する請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり訂正、付加又は削除するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。

1  原判決二〇六枚目表五行目の「応待」を「応対」と改め、同裏九行目の末尾に続けて、「なお、(一)B分687、688の記載によれば、本件差押当時、本店内に、B名義の当座預金元帳の写しが存在したことが認められるが、これによっても右認定を動かすに足りない。」を加える。

2  同二一〇枚目表一行目の「拒否した。」を「拒否し、査察官が伝票の提示を求めた同会社以外の名義の預金が同会社の仮名預金であることを否定してその調査を拒んだ。」と改める。

3  同二二一枚目裏一〇行目の「並べ、」の次に「その表紙等に記載されてある該文書の名称、記載年度、期間等の外形的表示によって仮名預金の発見及びその入出金内容の解明に有効な書類であるか否かが判断できるものについては、その外形的な表示によって差押えの要否を判断し、このような外形的表示がなく、名称等からも判断できない書類については内容を検討したうえで選別するなどして、」を加える。

4  同二三〇枚目表六行目の「号証、」の次に「原本の存在及びyが上野支店における本件強制調査の際一階事務室を撮影した写真であることに争いのない乙第二三号証、」を加える。

5  同二三六枚目裏三行目の「更にこれを点検し直して選別し、」を「更にその各書類を床の上に広げて内容を検討し、差押えの要否を点検し直して不要な書類を除外するなどの選別をし、」と改める。

6  同二四五枚目裏六行目の末尾に続けて「なお、右所得金額について、特定の取引にかかる具体的な実際所得金額の記載がなれさていないとしても、臨検、捜索、差押許可状に記載すべき犯則嫌疑事件の構成要件事実としては、その記載に脱漏があるとまではいえない。」を加える。

7  同二四五枚目裏七行目の「原告は、」から同二四七枚目表四行目の末尾までを次のとおり改める。

「控訴人は、本件許可状のうちB及びCに関する各許可状には、犯則事実として、過少申告を行った旨の記載があるにかかわらず、総収入金額の記載がないから、右各許可状の記載は、国犯法二条四項に違反し無効であると主張する。

国犯法二条四項は、犯罪事実が明らかなときはこれを許可状に記載すべきことを定めているところ、これは、犯則事実の記載により、捜索、差押えをなすべき犯則嫌疑事実を特定し、これによって捜索差押えべき物件の範囲をできるだけ明確にして、収税官吏が不当に広範囲にわたって探索的捜索、差押えをしたり、許可状を他の犯則事件の捜索に流用したりすることを防止し、もって私人の自由権と財産権を保障する趣旨であると解される。したがって、裁判官は、右の目的を達するに必要な事実で、かつ、提示された資料により認定できる範囲で、犯則事実を特定し記載すれば足りるというべきである。

なるほど前顕甲第三〇号証の二及び四、第三一号証の二によれば、控訴人出張のとおり、B及びCに関する各許可状には、総収入金額の記載がないことが認められる。しかし、右各書証によれば、右各許可状には、犯則嫌疑者がそれぞれ調査対象年分において申告額を上回る所得を得ているにもかかわらず過少な申告をし、所得税を免れている疑いがあるとして、過少申告にかかる所得金額の具体的な数額が記載されていることが認められるのであり、国犯法二条四項の前記趣旨に照らせば右記載をもって足りるというべきであり、捜索段階で総収入額を明示し得る程度に確定することが困難な場合があることを考えれば、総収入金額の数額の記載がないことをもって右各許可状が同項の規定に違反した無効なものとはいえない。」

8  原判決二五九枚目裏一〇行目の「しかしながら、」から同二六〇枚目表一行目までを「強制調査の必要性は、これを実施する時において、犯則事実の存在について合理的な疑いがあり、これを明らかにするために任意調査によっては目的を達しられない事情があれば足りるのであって、強制調査の結果によって嫌疑事実を明らかにするにいたらず、あるいは嫌疑事実が存在しないことが明らかになったとしても、強制調査の必要性がなく、強制調査が違法であったということはできない。」と改める。

9  同二六〇枚目裏一行目の末尾に続けて「控訴人は、控訴人が右提示を拒否した各帳簿書類は、一覧性があり、控訴人は金融機関として顧客に対する守秘義務を負っているのでその提示を拒否しうる旨主張するが、金融機関が顧客との信頼関係を重んじて任意調査に応じないことが首肯し得るとしてもそれは私法上の関係であり、強制調査を拒否しうるものではなく、主張は採用することができない。」を加える。

10  同二六二枚目表一行目の「求めたり、」の次に「特定人の調査であっても多人数を網ら的に記載して調査を求めたり、」を、同行目の「索引簿」の次に「元帳綴、伝票綴」を、同二行目の「帳簿書類」の次に「または正式の帳簿、書類以外の例えば銀行内部の稟議書、メモ等」をそれぞれ加え、同六行目の末尾に続けて「なお、控訴人は、一般に金融機関は、任意調査において、多人数を網ら的に記載して調査を求められたり、一覧性の帳簿書類の提示を求められたりしたときは、これを拒否することができるとの慣習がある旨主張するが、任意調査に応じるか否かは被調査者の判断によって決することができ、顧客との信頼関係を重んじて任意調査に応じないことも首肯し得べきであるが、それによって強制調査を拒む理由とすることができないことは前示及び後記のとおりであって、慣習によって当否を論ずべきものではないし、主張のような慣習を認めるに足りる証拠もない。」をそれぞれ加える。

11  同二六三枚目裏五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件調査は所得調査であるから、法人税法、所得税法上の質問検査権の行使によってなされるべきものであり、国犯法上の強制調査によることはできないものであり、仮に、国犯法上の強制調査が右質問検査権による調査と競合的に許されているとしても、一挙に右の強制調査の手段をとることは憲法三五条に違反する旨主張する。しかし、収税官吏は、犯則事件について調査をするため必要があるときは国犯法上の強制調査をすることができる(国犯法二条)ところ、本件調査が、各犯則嫌疑者に対する犯則事件の調査としてなされたものであることは既に判示のとおりであり、しかも、各嫌疑者に対する犯則事実が認められ、これについて質問権等の行使によっては調査の目的を達することができなかったため、止むなく強制調査に踏み切ったものであることも前判示のとおりであるから、控訴人の右主張は、理由がない。

さらに、控訴人は、仮に、強制調査の必要性があったとしても、それは、収税官吏が任意調査を拒否されたとする特定の帳簿、書類のみについてであり、拒否された帳簿、書類を特定して令状請求をすべきであった旨主張する。任意調査によって調査の目的が遂げられるのに安易に強制調査に出ることはもとより許されないところであるが、任意調査の状況その他の事情に照し、さらに任意調査を継続しても協力が期待できないと認められれば強制調査の必要性があるというべきであって、個々の差押物件について任意調査を経ることを必要とするものではない。本件強制調査においてその必要性があったと認められることは既に判示したところで明らかであるから、控訴人の右主張は理由がない。」

12  同二六四枚目表一〇行目の「到底できない。」の次に、「他に主張の事実を認めるに足りる証拠は何ら見当らないばかりでなく、」を加える。

13  同二六五枚目表六行目の末尾に続けて「控訴人は、許可状は法人の代表者又はそれに代わるべき立場の者に提示すべきであり、現場に居合わせた最上席者であっても預金係長に提示しただけでは足りない旨主張するが、特にそのように解すべき理由はない。」を、同二六五枚目裏九行目の末尾に続けて「なお、証人H(当時預金係)、同I(当時総務課長、第二回)同中西克夫(弁護士)の各証言中には捜索差押令状の提示を求めたがこれに応じなかった旨控訴人の主張に沿う趣旨の供述があるが、前記第四の一ないし五及び第五の四認定の各事実並びに第六の二の冒頭掲記の各証拠に照らして採用できない。」を、同二六六枚目表七行目の末尾に続けて「証人fは、R預金係長が証明書のようなものを見せて欲しいと言ったところ、査察官が背広の内ポケットをチラッと見せて証明書らしきものが入っているかどうか確認できない早さでまた背広の襟を閉じてしまった旨供述し、証人g、同Tも同趣旨の証言をしているが、これらは、証人小林一誠の証言(第二回)など前記第六の三の冒頭掲記の各証拠に照らしていずれも採用し難い。」をそれぞれ加える。

14  同二六七枚目表一行目の「ならない。」の次に「控訴人は、金融機関に対する強制調査のような特殊な場合には、事情を熟知している総括責任者を立会人とすべきであり、係長という一部門しか把握していない立場にある者に立会いの諾否を決める権限はない旨主張するが、国犯法六条一項では、捜索場所の事務員、雇員をもって足りるとしているのであり、臨機迅速に行われるべき捜索差押においてその場に居合せない者の来着を待たなければならないとするのは相当でなく、金融機関等について特異に扱うべき理由もないから右主張は採用できない。」を加える。

15  同二七〇枚目裏二行目の「業務部長」を「営業部長」と、同二七二枚目裏二行目の「考慮すると、」から同三行目の「前記本店」までを「考慮すると、電話による送信、受信を禁じられた旨の控訴人の主張に沿う趣旨の右各供述はそのまま措信することはできず、本件全証拠によっても強制的に禁止されたものと認めることは困難であり、かえって右の各供述及び認定した各事実を総合すれば、前記本店」とそれぞれ改める。

16  同二七五枚目表二行目から同裏三行目までを「国犯法七条一項において、差押、領置した物件の目録を作成し、所有者、所持者の請求によってその謄本を交付すべきことを定めているのは、差押、領置した物件を明確にし、手続の公正、適正をはかり、よって、被差押、領置物件の所有者、所持者の権利を保護するにあると解されるところ、右規定の趣旨と、目録を作成、交付すべき時期について特段の定めがないことを併せ考えると、右目録の作成、交付は差押、領置後すみやかになされるべきであり、原則として差押、領置の現場で作成し、交付すべきものであるが、差押、領置した物件が極めて多数、多量であるとか、現場の物理的環境その他の状況により、安全正確に、かつ、相当な時間内に作成することが不可能ないし著しく困難なときにまで現場で作成して交付することを義務付ける趣旨と解することはできない。」と、同四行目の「みるのに」を「みるに」に各改め、同二七五枚目裏八行目「集積した」の次に「差押物件を入れた」を加える。

17  同二七九枚目表一行目から同二八〇枚目表四行目までを次のとおり改める。

「2  本件令状に差押対象物件の記載として「犯則事実を証明するに足る……物件」とあるのは、犯則事実を証明するに足りることが一見して明白な物件に限る趣旨ではなく、犯則事実を直接、間接に証明するに足りる可能性があると判断される物件を含む趣旨と解するのが相当である。

右可能性の判断は単なる漠然とした見込みによってするのではなく、ある程度の蓋然性があると認められることを要するものである。

もっとも、調査の段階においてはいまだ証拠資料を収集する過程にあって、犯則事実自体合理的疑いの程度に止まり、確定するにいたっていないのが通常であるから、収集した証拠資料を仔細に対照、検討して取捨選択してはじめて犯則事実の存否、収集した証拠の価値について最終的判断にいたることを考えるならば、調査の段階である差押えの際において、証拠となり得るか否かを厳格に判断して取捨選択することは、特定の証拠の存在と内容が令状請求の際に明らかになっているようなときでない限り困難というべきである。しかも、本件犯則事実のように、金融機関である控訴人の協力を得て、多数の仮名預金口座を設定するなどして計画的に所得を隠蔽したという疑いのもとに行なわれた複雑、大規模な調査においては、差押えの現場において、差押対照物件の一々についてその内容を検討し、証拠資料としての価値を判断することは不可能というべきであるから、犯則事実を証明するに足りる物件であるか否かの判断は、対象物件が文書であるときは、その具体的記載内容はもとより、本来備えている内容、性質、標題、形式等により、収税官吏が同種事件の調査等によって蓄積して有する専門的知識、経験等に基づく合理的な判断によって、犯則事実と差押対象物件との関連性の有無を判断することによってなされるほかないものというべきであり、結局、証明するに足りる可能性のある物件であるか否かの判断は、犯則事実との関連性を有する可能性がある程度の蓋然性をもって存在するか否かの判断によってなさるべきものと解するのが相当である。

控訴人は、犯則事実との関連性を有する可能性があればよいとして差押を認めることは、差押えることのできる物件の範囲があいまいで不当に広くなり過ぎ、押収する物の明示を要求する令状主義に反する旨主張する。しかし、本件令状には犯則事実の記載があって、関連性の有無の判断はこの事実によって限定され、その判断は合理的なものであって恣意的なものであってはならず、しかも、対象物件としては「営業並に経理に関する張簿書類、往復文書、メモ、貯金通帳、同証書、有価証券及び印鑑等」と記載されているので、これらの物件並びにこれに類する物件に限定されることになるからその表示をもって差押えるべき物の明示に欠けるということはできない。」

18  同二八一枚目表九行目の「預金口座のうち」の次に「収税官吏の長年蓄積された専門的経験と知識によって犯則嫌疑者に帰属する仮名預金に関係があると思料される」を加える。

19  同二八一枚目裏三行目の「可能である」を「可能であり、これがいわゆる消去法といわれるものである」と、同六行目の「金融機関」から同一〇行目までを「いわゆる消去法による調査のためには、犯則嫌疑者の預金と関連のないすべての預金口座を消去するための資料として金融機関の有するすべての帳簿書類が必要となるのであり、その差押えを認めることはすべての資料の無差別・包括的な差押えを認めることになるという点で令状主義に反するものであり許されないと主張する。しかし、特定の犯則嫌疑者に関する仮名預金を探索する目的で、その必要の限度で差押えをするものである以上無差別的包括的差押というべきでないばかりでなく、証人北島孝康の証言によれば、いわゆる消去法による調査のために金融機関の有するすべての帳簿書類が必要となるということはなく、そのために必要な資料は収税官吏の専門的経験と知識によって犯則嫌疑者に帰属する仮名預金発見のために必要と思料されるものに限定されることが認められる。したがって、いわゆる消去法による資料の収集のために差押えを認めることが当然にすべての資料の無差別・包括的な差押えを認めることになるということはできず、いわゆる消去法のため特定の犯則事実との関連性を有する右一定範囲の資料の差押えを認めることが令状主義に違反するものということはできない。」とそれぞれ改める。

20  同二八二枚目表一〇行目の「並べて」を「並べ、当該書類の表紙等に記載されてある名称、記載年度、期間等によって関連性の有無を判断できるものはその外形的な表示によってこれを判断選別し、これが不能な書類についてはその内容を検討したうえで選別するなどして」と改め、同裏一行目の「帳簿書類を」の次に「右と同様の方法で」を加え、同三行目及び五行目の各「点検し」、を「点検して選別し」と各改め、同一一行目の「103」を「126」と改める。

21  同二八三枚目表に行目の「証拠」の次に「並びに弁論の全趣旨」を加え、同六行目の「別紙第一目録(一)(以下「(一)」という。)」を「(一)」と、同七行目から同八行目にかけての「別紙第一目録(二)」(以下「(二)」という。特に表示しない限り三和企業分。)」を「(二)」とそれぞれ改め、同九行目の「入金票((二)」の次に「56、」を加える。

22  同二八四枚目表七行目の「イないしハ、」の次に「成立に争いのない甲第七四号証、」を加える。

23  同二八五枚目裏七行目の「イロ」の次に「、成立に争いのない甲第七五号証、第七六号証の一、二」を加える。

24  同二八六枚目表七行目の「イロ、」の次に「成立に争いのない甲第七七号証の一ないし一〇、」を加える。

25  同二八七枚目表末行目「一〇〇イロ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇三号証の一ないし三、第一〇四号証の一ないし五二、第一〇五号証の一ないし八、」を加える。

26  同二八九枚目裏一行目の「イないしヘ、」の次に「成立に争いのない甲第七八号証、」を加える。

27  同二九〇枚目表四行目の「一三五イロ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇六号証、」を、同裏三行目の「一九六イロ、」の次に「成立に争いのない甲第七九号証一ないし一二、」を、同末行目「一九七イロ、」の次に「成立に争いのない甲第八〇号証一ないし一三一、第八一号証の一ないし八、第八二号証の一ないし一一八、」をそれぞれ加える。

28  同二九一枚目裏三行目の「一九九イロ、」の次に「成立に争いのない甲第八三号証の一ないし三〇九、第八四号証の一ないし六、」を加える。

29  同二九二枚目裏九行目及び同一〇行目の各「、」をいずれも「・」と改める。

30  同二九三枚目表六行目の「イないしハ、」の次に「成立に争いのない甲第八五号証の一ないし四、第八六号証の一、二、」を、同末行目「ないしニ、」の次に「成立に争いのない甲第八七号証、」をそれぞれ加える。

31  同二九四枚目表末行目「イないしハ、」の次に「成立に争いのない甲第八八号証、」を加える。

32  同二九七枚目裏一〇行目の「イいなしニ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇七号証の一ないし四、」を加える。

33  同二九八枚目裏九行目の「イロ」の次に「成立に争いのない甲第八九号証の一ないし二〇」を加える。

34  同二九九枚目表六行目の「前顕」の前に「成立に争いのない甲第九〇号証、」を加える。

35  同三〇〇枚目表九行目の「前顕」の前に「成立に争いのない甲第九一号証一ないし四、」を同裏一行目の「イロ、」の次に「成立に争いのない甲第九二号証一ないし一三、」を、同四行目の次に行を改めて「成立に争いのない甲第九三号証の一、二。」を、同九行目の次に行を改めて「成立に争いのない甲第九四号証の一ないし四。」をそれぞれ加える。

36  同三〇〇枚目裏一〇行目から同三〇一枚目表一行目まで及び同四行目から同八行目までをそれぞれ削除する。

37  同三〇一枚表一〇行目から同裏四行目までを「成立に争いのない甲第九五号証の一ないし四。」と改め、同六行目の「イロ、」の次に「成立に争いのない甲第九六号証の一、二、」を加え、同行目の「第一三、」、同七行目の「北島孝康、同」、同行目の「各」、同八行目の「によれば」から同三〇二枚目表三行目の「認められる」まで、同五行目から同末行まで、同裏二行目から同九行目まで及び同末行から同三〇三枚目表五行目までをそれぞれ削除する。

38  同三〇三枚目表七行目の「乙第一三号証」から同裏三行目までを「成立に争いのない甲第九七号証の一ないし一一」と改め、同五行目から同末行までを削除する。

39  同三〇四枚目表二行目から同三行目の「乙第一三号証」を「成立に争いのない甲第九八号証の一ないし一〇」と改め、同三行目の「、同北島孝康」、同行目の「各」、同四行目から同八行目の「できる」まで及び同一〇行目の「、乙第一三」から同裏四行目の「認められる」までをそれぞれ削除する。

40  同三〇四枚目裏七行目の「イないしニ、」の次に「成立に争いのない甲第九九号証の一ないし四、」を加え、同七行目から同八行目にかけての「、同北島孝康」及び同行目の「によれば」から同三〇五枚目表一行目の「れる」までを削除する。

41  同三〇五枚目表三行目から同八行目までを「成立に争いのない甲第一〇〇号証の一ないし四。」と改め、同一〇行目から同裏五行目まで、同七行目から同三〇六枚目表二行目まで、同四行目から同八行目まで、同末行から同裏八行目まで、同一〇行目から同三〇七枚目表五行目まで、同七行目から同裏二行目まで、同四行目から同九行目まで、同末行から同三〇八枚目表五行目まで、同七行目から同末行まで、同裏二行目から同八行目まで、同末行から同三〇九枚目表五行目までをそれぞれ削除し、同裏七行目の「のうち、」の次に「その他、すなわち、」を加える。

42  同三一〇枚目表八行目の「イないしニ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇一号証の一、」を加え、同行目の「同」を「前顕甲第六九」と、同九行目の「二、」を「ニ、成立に争いのない甲第一〇一号証の二、」と、同行目の「同」を「前顕甲第六九」とそれぞれ改め、同行目の「イないしハ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇一号証の三、」を加え、同一〇行目の各「同」をいずれも「前顕甲第六九」とそれぞれ改め、同行目の「イないしハ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇一号証の四、」を、同一一行目の「イないしホ、」の次に「成立に争いのない甲第一〇一号証の五、」をそれぞれ加え、同行目の「同」を「前顕甲第六九」と改め、同行目の「イないしハ、」の次に「「成立に争いのない甲第一〇一号証の六、」を加え、同裏一行目の「同」を「前顕甲第六九」と改め、同行目の「イないしル、」の次に「成立に争いのない甲第一〇一号証の七ないし九」を加える。

43  同三一二枚目表九行目の「経過」を「過程」と改める。

44  同三一三枚目裏二行目の「被告国は」から同三行目から四行目にかけての「全趣旨から」までを「被控訴人国が、差押えについては、収税官吏の合理的判断により犯則事実との関連性があると判断されれば、差押えの必要性があるというべきであるとの前提のもとに、本件差押物の全部について右関連性があった旨主張していることはその主張において」と改め、同裏六行目から同三一四枚目表一行目までを削除する。

45  原判決三一四枚目裏二行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「もっとも、前記のとおり、本件差押え物件の中に関連性を肯認することが困難な物件が含まれていたこと、本件差押えが行われた翌日に三〇〇余点という多量な物件が返還されたことからすると、右返還された物件のうちで、関連性があると判断されて差押えられた物件の中にも、差押えの際多少でも子細な検討を加えたならば差押えの必要性がないと判断された物件かある程度含まれていたのではないかと推認されないでもない。しかし、この点においても既に判示した(第八の九5(原判決三一〇枚目裏八行目から三一一枚目表二行目まで))とおりであって、その選別判断に過失があったということはできない。」

46  同三二二枚目表一〇行目の「持ち去ったもの」を「持ち去ったか、あるいは押収物の中に混入して不明になったもの」と、同三二三枚目表五行目の「持ち去ったもの」を「持ち去ったとか右現金が押収物の中に混入した」とそれぞれ改める。

47  同三二四枚目表末行の「作成保有」を「作成し、差押物件を還付したのちその複写物を保有」と改め、同裏七行目の「それにより」から次行までを「控訴人主張のように、たとえ、差押物件の完全な複写物を保有することが、実質上、物件の占有移転と同様な結果を生じると考える余地があるとしても、複写物にまで被差押者の支配権が及ぶものではなく、その引渡を求めることはできない。」と改め、同三二五枚目表五行目の末尾に続けて「なお、本件複写物は、差押物件そのものではないのであるから、国犯法一八条一項または同法七条四項の規定により検察官に引き継いだり、または還付したりしなければならないものではない。」を加える。

二よって、原判決を相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川上正俊 裁判官橋本昌純 裁判官石井健吾は転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官川上正俊)

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